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晩期資本論(連載第45回)

2015-05-19 | 〆晩期資本論

十 剰余価値から利潤へ(4)

・・・原料は不変資本の主要な一部をなしている。本来の原料がはいらない産業部門でさえも、原料は補助材料や機械の成分などとしてはいるのであり、したがって原料の価格変動はそれだけ利潤率の影響を及ぼすのである。

 利潤率は固定的なものでなく、変動的な指標であるが、利潤率の変動の大きな要因となるのが、原料の価格変動である。なお、「ここでは原料のうちには補助材料、たとえばインディゴとか石炭とかガスなどのようなものも含まれる」。現代では石油が加わる。また「機械の製造においても充用においても主要な要素である鉄や石炭や木材などの自然の富は、ここでは資本の自然発生的な豊饒性として現われているのであって、それは労賃の高低にはかかわりなく利潤率を規定する一要素だということである」。

・・・他の事情が変わらなければ、利潤率は原料の価格とは反対の方向に上下する。

 つまり、原料価格が上がれば利潤率は低下し、原料価格が下がれば利潤率は向上する。これは経験的にも理解しやすい法則であろう。「このことからとりわけ明らかになるのは、原料価格の変動が生産物の販売部門の変化を少しも伴わない場合でも、したがって需給関係はまったく無視しても、工業国にとっては原料価格の低いことがどんなに重要であるかということである。さらに明らかになるのは、対外貿易は、それが必要生活手段を安くすることによって労賃に及ぼす影響はまったく無視しても、利潤率に影響を及ぼすということである」。

それだから、原料関税の廃止や軽減は工業にとって大きな重要性をもっているということがわかる。それゆえ、原料ができるだけ自由にはいってくるようにすることは、すでに、より合理的に展開された保護関税制度の主旨でもあったのである。

 国際貿易が最高度に発達している晩期資本主義では税込みでの国際的な原料価格が利潤率に及ぼす影響は極めて大きく、自由貿易の究極は個別の貿易産品の関税廃止を越えた原料関税の廃止である。

資本主義的生産が発展していればいるほど、したがって不変資本中の機械から成っている部分を急激に持続的に増加させる手段が大きければ大きいほど、また蓄積が(ことに繁栄期に見られるように)急激であればあるほど、それだけ機械やその他の固定資本の相対的な過剰生産は大きく、それだけ植物性および動物性の原料の相対的な過少生産は頻繁であり、それだけこれらの原料価格の・・・騰貴もそれに対応する反動もはっきりしてくる。したがってまた、再生産過程の主要な要素の一つであるこうした激しい価格変動を原因とする激しい動揺も、それだけますます頻繁になるのである。

 植物性や動物性のような有機的原料の生産は資本主義先進諸国では機械等の固定資本部分の生産に比して相対的過少生産となるため、有機的原料への需要が供給を上回り、原料価格の騰貴をもたらしやすい。

原料が騰貴する時期には産業資本家は結束して連合体をつくって生産を調整しようとする。・・・・・・・・しかし、直接の刺激が過ぎ去って、「いちばん安い市場で買う」・・・・・という競争の一般原理が再び至上的に支配するようになれば、供給の調整は再び「価格」にまかされる。

 原料価格騰貴による利潤率の低下を食い止めるため、産業資本家は価格カルテルを結んで競争状態を一時停止するが、それが過ぎれば、再び競争状態に戻っていく。マルクスは続けて「原料生産の共同的・干渉的・予測的な統制―このような統制は概して資本主義的生産の諸法則と全然両立しないものであり、したがってまたつねに空しい願望にとどまるか、または大きな直接的危機と困惑の瞬間に例外的にとられる共同的処置に限られる」とも指摘するが、裏を返せば、「原料生産の共同的・干渉的・予測的な統制」は共産主義的生産体制では通常的なこととなるであろう。

労働の搾取率が同じだと前提すれば、・・・・・・・・・・利潤率はつぎのようなことによって非常に違うことがありうる。すなわち、原料が安いかあまり安くないないか、その買い付けについて専門知識が多いか少ないかによって、また充用される機械が生産的・合目的的かつ安価であるかどうかによって、また生産過程のいろいろな段階の設備全体が完全であるかあまり完全でないか、材料の浪費が排除されているかどうか、指揮監督が簡素かつ有効であるかどうか、等々によって、利潤率は非常に違ってくるのである。

 原料価格以外にも、こうした高度の経営判断を要する諸要因の総合作用により、利潤率は変動してくる。「要するに、一定の可変資本についての剰余価値は与えられていても、この同じ剰余価値がより大きい利潤率で表わされるか、より小さい利潤率で表わされるか、したがってそれがより大きい利潤量を与えるか、より小さい利潤量を与えるかは、資本家自身なり彼の管理補助者や支配人なりの個人的な事業手腕によって非常に左右されるのである」。そのため、現代の資本制企業では、純粋の資本家ではなく、MBAなど経営管理の専門職をトップに起用することが慣習化している。

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