黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『傍聞き』長岡弘樹(双葉社)

2009-03-07 | 読了本(小説、エッセイ等)
服役した人々の社会復帰の為の更正保護施設<かすみ荘>。そこで施設長を務める設楽結子だったが、期待をかけても裏切られることが多く、その理想と現実の落差に疲れ果て、辞職を考えていた。
そんな彼女が目下気にかけているのは、ようやく就職先の決まった碓井章由。
3年前の6月18日、泥酔した上で自転車に乗り、少女を轢いてしまった彼は、昨年のその日、支給されたチリ紙を口に詰め込み自殺をはかっていた。今年の命日にも自殺を考えているのではないかと心配するが……『迷い箱』、
アパートの隣の家に生後4ヵ月の娘・あいりと暮らす女性・新村初美に恋をした、消防士・諸上将吾。日々挨拶を交わしながら、親交を深めていた矢先、近所で火災が発生。彼女の家にも被害が及ぶ中、あいりが家にいると知らされ、救助に向かった諸上だったが、何故かその姿が見当たらず……『899』、
同じ職場で働いていた夫は亡くなり、6年生の娘・菜月と暮らしている杵坂署強行犯係の刑事・羽角啓子。
忙しく働く啓子は、菜月とのすれ違いも多く、機嫌を損ねた彼女から無言の筆談攻撃に遭うこともしばしば。
所轄内で発生していた連続通り魔を追っていた彼女だったが、その矢先、自宅の裏手に住む老人・羽角フサノの家が、居空き(家人が在宅中に入る泥棒)に入られたことを知り、その近くで目撃された男が、かつて自分が逮捕した“ネコ崎”こと横崎宗市に似ていたことから、心配する。
そんな中、留置管理課の伊丹から連絡が入り、件のネコ崎が彼女との面会を求めていると知らされる。しかし会いにいったものの彼は何も語らず……『傍聞き(かたえぎき)』、
老女が意識不明との通報を受け出動した救急隊員…隊長の室伏光雄と、近々彼の娘・佳奈と結婚する予定の隊員・蓮川潤也たち。しかし彼女は単に話し相手を求めているだけで、無事だった。その帰路、駅で刺された男性を乗せた彼らだったが、その人物は奇しくも、佳奈に車椅子生活を余儀なくさせた交通事故を不起訴にした、地検の副検事・葛井。彼を収容する病院がなかなか見つからない中、葛井は開業医である増原和成に電話をかけろという。その増原こそ佳奈を轢いた加害者。しかし増原にかけた電話が繋がった途端に切れた後、室伏は何故かサイレンを鳴らしながら救急車で走るように指示を出す……『迷走』の4編収録の短編集。

それぞれ特殊な職業についている人が登場するミステリ。
表題作は、第61回日本推理作家協会短編部門受賞作で、言葉の意味は、直接聞かせたい本人にいうのではなく、あえて別の人に向かって語り、それを聞かせることで信じさせる、漏れ聞き効果のこと、だとか。
そしてそれが実にうまく生かされたお話で、秀逸でした。

<09/3/7>