kenroのミニコミ

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近代絵画の新しい楽しみ方  「美術をみる8つのポイント」展

2012-04-06 | 美術
美術館が常設展の入れ替えで勝負するとき、要は収蔵作品の豊かさとそれをプレゼンテーションできる学芸員の力量によるものが多いと考えられる。
「美術をみる8つのポイント」展は、県立美術館が「原田の森」の地にあったときから集めた作品群が豊かであること、それらをみせる工夫を学芸員が知恵を絞っていることがとてもわかって好もしい。日本の近代化絵画の渓流、暖流を切り取ってみてみようという試みは、日本の近代絵画が、西洋のそれと比して決して遅れていないことを表す証となっていることを示すものだ。8つのポイントの一つひとつをみてみよう。
「1 いちばんリアルな絵はどれ?」。リアルとはここでは、現実の対象をいかに表現し得つくしているかにある。たとえば、神戸が誇る近代絵画の巨匠、小磯良平の絵は(今回は取り上げられていないが)、分かりやすいリアリズムの極致である。いかに近代技術の粋である写真に近づけるか、写真に負けない画を描くか。写実とはかくありなんとの筆致に画家の実力が問われていると、美術初心者にも分かりやすい題材ではある。
「2 イズムを読みとれるか?」。キュビズム、フォービスム、シュルレアリスム、未来派。展示ではどの絵がどのカテゴリーに分類されているかクイズ形式になっているが、クイズそのものは難しくはない。むしろ日本の近代絵画だけを取り上げているのに、日本に「未来派」が勃興していたとは驚きである。言うまでもなく未来派はイタリアの前衛芸術運動。絵画の世界では「カンヴァスに我々が再現するのはもはや止まった瞬間であってはならない…」(未来派宣言)と高らかにうたわれたことからも分かるように機械的な連続画で、ボッチョーニ、カッラやバッラなど極端な展開構成である。イタリアではないフランスのドローネーにおいて、一応の完成を見るが、ドローネーの手法は戦後アメリカのミニマリズムにつながっていくことから分かるように一時の実験的描法でないことは明らかである。
「3 どんな事件/体験? どんな記憶/記録?」。いろいろな作品が出展されているが、体験の重みという点では浜田知明の「初年兵哀歌」が秀逸である。20代のほとんどを軍隊生活で費やした浜田は、軍隊の不条理を簡明なタッチで余すところなく伝えている。線画ともおぼしき銅版画は、浜田の経験した過酷な体験を突き刺すような細い線、シンプルであるからこそ伝わる痛さ、みたいなものを十二分に表現しつくしていて、それでいて滑稽さをさそう。兵庫県立美術館であるから当然、阪神・淡路大震災をテーマにした作品も多い。ただ、説明がないと分かりにくいのであれば、鑑賞者が作品に共感、思い入れを込められない場合もあり、作家とその表現方法・能力が問われる。
「4 どんな動きがかくれている?」。具体のメンバー白髪一雄が足で描画をはじめたのは有名なので、大きな筆とはまた違う迫力にいつ見ても感心させられる。アクションペインティングの流れをひく嶋本昭三(絵の具の入ったガラス瓶を投げて飛び散らせる)、今井俊満(フランスでアンフォルメ運動に参加)らの実験は、時代を意識させるが、今となっては具体ほどの新しさはないように思える。
「5 どれがいちばんモダニズム絵画?」。これは結構難しい。モダニズムという場合広義ではパリを中心としたアカデミズム画壇に対抗するものとして始まり、印象派以降、フォービズムやキュビズム、戦後のミニマルアートまでその守備範囲は広く、日本では主に戦前からの抽象絵画を指すものとして「モダニズム」と一口に言っても、想起する範囲が違うからである。そういった「抽象」の範疇で考えるなら、具体がなしたハプニングなどよりももっと描画や立体に徹底したものと言え、その時々の新しさというよりむしろその後の画壇を牽引するかもしれない普遍的な香りがモダニズム作品には不可欠にように思える。そういった目で見ると菅井及はいたってモダンで、ミニマルアートぽいし、今見ても古びないのは、ミニマルアートは極限までそぎ落とした分、簡明さや印象は絵画の普遍を構成するからだろう。
「6 どんな考えかを考えてみる?」。ここでは高松次郎、河口達夫、植松奎二ら見る者の想像力をかき立てるときに不思議な空間、映像、立体が現出する。それは、抽象ではなくきわめて具体的かつ現実的なものだ。高松の影(絵)、河口の星の軌跡を追った写真群、植松の金属やその他の素材を使った彫刻など作者の意図するところを推し量ると、こっちが迷宮に入り込みそうで心地よい。
「7 何のイメージ?」。森村泰昌ら現在活動、活躍するコンテンポラリーな話題提供として現実を切り取って見せた試みを楽しめるが、おもしろさが前面にでている分、「6 どんな…」に比して深さに足りない部分があると感じるのはいたし方ないことか。
「8 景色をどう切りとるか?」。西洋で風景画・風俗画が発達するのは、美術を楽しむ層が宗教画をありたがる教会や王侯貴族から庶民に移ったバロック期以降であるのに比べて、日本では仏画などとは別に花鳥風月を楽しむ歴史があるという。そういったバックボーンが日本の現代絵画や建築にどう影響しているかいないか分からないが、少なくとも美術が王族その他の一部の特権階級のものでない現代、楽しみ方はさまざまで、その前提として見やすさ、気安さ、近寄りやすさは美術に対する裾野をますます広げるに違いない。
今回の「8つのポイント」は、前述のとおり県美の財産が豊富であるのが幸いの楽しい企画であるとともに、見せる工夫のための切り取り方に感心してしまう。自分なりに8つ以上のポイントを探し出して近代絵画を楽しみたい。(坂田一男 「女と植木鉢」)
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