ペンギン夫婦の山と旅

住み慣れた大和「氷」山の日常から、時には海外まで飛び出すペンギン夫婦の山と旅の日記です

シャンタラム~最近読んだ本

2013-05-11 10:24:05 | 読書日記

変わった題名ですが、これは主人公の名前です。本名は他にあるのですが、脱獄囚の彼が世を偲ぶ仮の名。名付け親は彼がインド・ボンベイで知り合い、後に親友になるガイド、プラバカルの母親で、デカン高原の古い農村に住む女性です。シャンタラムとは「平和を愛する人」…さまざまな事件に出会ったあと、最後にこの女性が主人公の前に再び大きな意味を持って現れます。読み終わったとき、久しぶりに感動して涙が滲みました。

文庫本で上、中、下あわせて1,870ページの大冊です。一気に読み終わりましたと…言いたいのですが、加齢のために目が弱くなってから長時間の読書は無理になりました。続けて読めるのは100ページがせいぜいで、何日間も放りぱなしのときもあって一ヶ月以上かかって読みました。

とにかく主人公「リン・シャンタラム」の生き様は波乱万丈です。武装銀行強盗で服役中のオーストラリアから脱獄してボンベイへ。そこで襲われて無一文になり、スラムに住むことになります。様々な人との出会い、なかでもマフィアのボス、カーデル・ハーンとの出会いが彼のその後の運命と大きく関わってきます。スラムでコレラが発生し、医師の心得のあるリンは大活躍。しかし何者かの陰謀で投獄され、過酷な拷問をうけ同房者と闘いみじめな時間を過ごします。カーデル・ハーンに救われ、彼の下で偽造パスポートや不正両替の仕事で裕福になり…更にアフガン戦争に参加、マフィア同士の抗争と予期せぬ展開が続きます。

良くできた面白い小説ですが、カバー裏の「筆者紹介」によると、最初の銀行強盗、脱獄をはじめ、かなりの部分が筆者の実際の体験に基づいているようです。そのため状況描写は精密そのものです。スラムの場面ではゴミや人々の生活の匂いが間近に迫ってくるような気がします。謎の美女カーラとの色模様は思ったより淡白な描写ですが、刑務所内での権力による暴力の凄まじさでは、実際に痛みを感じそうです。

この本は愛と憎しみ、暴力と安らぎ、正と邪、善と悪、富と貧困…相反する立場を行き来する「主人公の魂の遍歴」の書と言えるでしょう。そして随所に散りばめられた主人公の述懐によって、「人生とは何か」を考えさせる偉大な哲学小説になっていると思います。