ペンギン夫婦の山と旅

住み慣れた大和「氷」山の日常から、時には海外まで飛び出すペンギン夫婦の山と旅の日記です

チベットの薔薇

2006-12-30 09:37:31 | 読書日記

帯の「グレアム・グリーン絶賛。神秘と謀略の地、想像を絶する冒険」
という惹句と、この表紙(カンチェンジュンガらしい)に釣られて手に
しましたが、山の描写はあまりない冒険小説です。

主人公はイギリスの中学美術教師。弟が山の映画撮影中に雪崩に会い、
迂回して迷い込んだチベットで行方不明になります。その生死を確認
のためにチベットに潜入する主人公の冒険物語が本書です。
実は、弟はチベット奥地の僧院で、ある儀式の秘密を知ったことから
そこに幽閉されています。その僧院長(尼さん)が18歳で絶世の美女、
とくると後はお決まりの展開で通俗小説になりそうですが、…ところが
時代背景の設定が絶妙なのです。
1950年代初め、というと中国がチベットを「解放」し、一四世ダライラマ
がインドに亡命する少し前。今は中国の自治区で落ちついているような
チベットですが、当時の中国の「(農奴制からの)解放」政策には、中国
人との強制結婚で漢民族化を計るなど「侵略」の側面が見え隠れします。
「神秘の土地」(巻頭に地図があるが関係なく、まったく架空の土地)
への潜入と脱出、何度も命を落としかけた末「宝物」を得て帰国する
男の話ですめばいいのですが、込み入った仕組みでこの物語が世に出る
いきさつが前後に付いています。これがちょっとシンドイのですが、
読み終わると、時代背景がより鮮明になる…。そんな変わった小説でした。