見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

静嘉堂@丸の内初訪問/初春を祝う(静嘉堂文庫美術館)

2023-01-08 22:44:27 | 行ったもの(美術館・見仏)

静嘉堂文庫美術館 静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展II『初春を祝う-七福うさぎがやってくる!』(2023年1月2日~2月4日)

 2021年6月に世田谷岡本の地を離れ、2022年10月から東京丸の内の明治生命館1階で展示活動を開始した静嘉堂文庫美術館。しかし開館記念展I『響きあう名宝』は、ちょうど公私に忙しくて見逃してしまったので、これが丸の内への初訪問になる。おしゃれなお姉さんのいるカウンターで、オンライン予約のチケットを確認してもらい、中に入る。ソファの置かれた四角い部屋(ホワイエ)には、有田焼の展示ケースが1つだけ置かれていたものの、ほかには展示品らしきものが見えないので、ちょっと戸惑った。フロアマップを見て、このホワイエを取り囲むように4つの展示室が設置されていることを把握する。

 今季のメインは、ギャラリー2に展示されている「七幅うさぎ」の木彫彩色御所人形の一群だろう。七福神と童子たち、兎の冠を戴く総勢58体の御所人形の一大群像で、卯年生まれの岩﨑小彌太(1879-1945)の還暦を祝って、孝子夫人が京都の人形司・ 丸平大木人形店の五世 大木平藏(1886-1941)に制作させたものだという。2021年6月、世田谷岡本での最後の展覧会『旅立ちの美術』にも出品されていたものだが、あのときは58体全部出ていたかどうか、はっきりしない。今回、よく見ると、日本ふうの着物を着た子どもと中国ふうの唐子がいて、中心となる七福神と宝船の周囲にいるのは唐子だが、行列の先頭と最後尾で、鯛車を引いたり餅をついたりしている子供は日本ふうだった。

 私が楽しませてもらったのはギャラリー3で、横長の展示ケースに、干支のうさぎ或いは新春にちなんだ中国絵画、近世日本画、近代日本画がびっしり掛けてあった。ちょっと作品と作品の間隔が狭すぎで、美術館というより骨董屋の店先みたいだったが、たくさん見られるほうが嬉しいので気にしない。沈南蘋『梅花双兎図』は、白梅の樹下に白ウサギが2匹。沈南蘋の描くウサギは凶悪そうな顔をしている。李士達『歳朝題詩図』は何度も見たことのある作品だったが、元旦の景であることに初めて気づいた。

 謝時中『花鳥図』は、四角ばった青色の太湖石(?)を中心に据えた着色の花鳥図。これまで全く良さが分からなかったのだが、今回、謎めいた青色の美しさに見とれた。それで気づいたのだが、世田谷では、どうしてもガラスの映り込みが気になっていたのだが、この丸の内の展示室は、全く映り込みがなく、作品に集中できる。素晴らしい!

 ギャラリー4には曜変天目も出ていた。これは常設になるのかしら? 展示位置が低めなので、上から覗き込むかたちになり、内底の釉溜まりが鏡のようにキラキラしているのがよく分かった。これも、世田谷より丸の内の暗めの展示室のほうが映える。

 世田谷岡本の美術館に小旅行気分で出かけるのも好きだったけど、近くなった丸の内の展示室、これからひいきにしたい。

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古代路、街道、高速道路/道路の日本史(武部健一)

2023-01-07 23:35:56 | 読んだもの(書籍)

〇武部健一『道路の日本史:古代駅路から高速道路へ』(中公新書) 中央公論新社 2015.5

 少し古い本だが、たまたま目に留まって、読んでみたら面白かった。工学部出身で建設省・日本道路公団で高速道路の計画・建設に従事した著者が、古代から今日までの日本列島の道路の歴史を具体的に描き出したものである。

 はじめに世界の道路の歴史に少しだけ触れる。ほぼ2000年前、中心から樹状に伸びる道路交通網が、イタリア半島(ローマ帝国)と東アジア(秦帝国)で同時に出現した。東西の道路が、それぞれトンネル技術を伴っていたことも興味深い。ナポリ郊外にはポリシポ・トンネルがあり、中国は褒斜道(!)に石門というトンネルがつくられた。

 さて日本である。『魏志倭人伝』には魏使が見た日本(対馬)の「道路」についての感想が記されている。『日本書紀』応神紀には「厩道」をつくったという記載がある。さらに仁徳紀によれば、高津宮から多比邑(たじひむら)に至る直線道路がつくられた。そして大化の改新を経て律令制国家が誕生すると、全国的に駅制(駅道・駅馬・駅家のシステム)が整備されるようになった。

 本書には、著者が実地に踏査したという平安時代の「七道駅路全図」も掲載されている。九州地方は非常に密で、ハシゴ状に迂回路を設けているのに対して、本州は、京都を中心に放射状に駅路が伸びているが、迂回路は考えられていないように見えるなど、興味深い。奈良時代の道路は、私の想像よりずっと広くて幅12メートルの遺構が見つかっているが、平安時代には9~6メートルに縮小されたという。

 面白いことに、現代の高速道路は古代路と同じ場所を通ることがしばしばあるという。両者とも「遠くの目的地に狙いを定めて、計画的に結んでいく」という思想が共通するためだ。それゆえ、高速道路の計画ルートは古代遺跡とぶつかってしまうことが多いのだという。一方、中世~江戸期の街道とそれを踏襲した近現代の国道は、地域の細かい集落を結んでいくので、古代路(および現代の高速道路)とは別ルートになる。

 経路の変遷の実例として、長野県の伊那谷を通る中央自動車道が古代の東山道と一致するのに対して、江戸期の街道および国道20号が木曽谷を通ることなどが挙げられている。私は車の運転をしないので、高速道路網には全く不案内なのだが、とても面白かった。東名高速の「日本坂」も古代路で、まだ国字の「峠」が使われる前なので「坂」と呼ばれた、というのも初めて知った。

 鎌倉時代、源頼朝や北条泰時による道路整備のエピソードも興味深いものばかりだが省略する(朝比奈切通、ちゃんと歩いてみたいな)。著者によれば、中世後半期には、道路や交通に対する施策はほとんど見るべきものがないという。

 近世に入ると、徳川家康は江戸を中心とする五街道を定め、宿駅制度を布いた。各宿場は、幕府御用のために人馬を提供する見返りとして、一般客のために宿場を経営する権利を得たが、負担の方が大きく、抜本的な対策のないままに幕末を迎えた。「宿駅制度が幕府崩壊の一因でもある」という説もあるのだな。地域限定だが、静岡県の井川刎橋(はねばし)と代官・近山六左衛門のエピソードや、日光街道の杉並木と松平正綱のエピソードも感慨深かった。

 明治政府の交通政策は鉄道に傾斜していたため、明治は道路にとっては冬の時代だったという。道路整備が人々の関心事となるのは大正時代。折しも関東大震災を契機として道路・橋梁技術が発展し、昭和に入ると、ドイツのアウトバーンの刺激を受けて、自動車専用の国道建設の議論が始まる。しかし戦争の激化によって計画は中止されてしまう。

 そして戦後、二人の田中(田中精一、田中角栄)の先導によって、全国的な高速道路網の整備が開始される。技術的に大きな貢献を果たしたのは、ドイツ人技師のクサヘル・ドルシェだった。実際に指導を受けた著者は、明治のお雇い外国人を引き合いにして「道路の世界もようやくお雇い外国人の恩恵に浴した」と述べている。

 今後のあるべき日本の道路について、災害の多い我が国では、リダンダンシー(冗長性)を備えた道路網の整備・維持が必要であるという主張には同意できる。その一方、高速道路や古代路のような「直達性」を備えた道路網の需要は徐々に減って、中世~近世的な、近隣の集落を結ぶ「街道」のほうが復権していくのではないか、ということもぼんやり考えた。

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春秋戦国から漢まで/兵馬俑と古代中国(上野の森美術館)

2023-01-04 18:25:10 | 行ったもの(美術館・見仏)

上野の森美術館 日中国交正常化50周年記念『兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~』(2022年11月22日〜2月5日)

 秦・漢王朝の中心地域である関中の出土品を主として、日本初公開となる一級文物など約200点を展示する。概要の「1974年に秦の始皇帝陵の兵馬俑坑が発見されてから、間もなく半世紀」を読んで気づいたのだが、兵馬俑坑の発見は、日中国交正常化の1972年9月のあとだったんだなあ。その後、私は学生時代の中国旅行で実際に始皇帝陵も見に行ったし、兵馬俑関連の展示が日本であると、ほぼ欠かさず見に行っている。今回は、2015年の東博『始皇帝と大兵馬俑』以来の本格的な展示と言えるだろう。

 展示会場は2階から始まり、1階に続く。あとで出品リストを見て理解したのだが、2階が「第1章(春秋戦国)」と「第3章(漢)」で、1階が「第2章(秦)」に当てられているのだ。ちょっとまごつく構成である。1階は全て写真撮影可で、青銅製の車馬の複製、青銅製の長剣、矛、戟、銭(秦半両銭)、木簡(里耶秦簡)などが1室、最後の1室がお待ちかね兵馬俑で、武士俑など8体と大きな戦車馬1体、それに馬の飼育係の役人だという鎧を付けない青年の跪坐俑が1体来ていた。

 たぶん一番人気の『跪射武士俑』。展示キャプションには、全て出土年が記載されており、けっこう早かった。私は、2012年と2015年の東博の展示で『跪射俑』を見たことを記録しているが、同じものだろうか。

 後ろ姿。腰の落とし方、身体の重心がとてもリアル。複雑なヘアスタイルを丁寧に再現しているのも魅力的。

 『立射武士俑』は、甲冑をつけていないし、弓(弩)を持っていないので、なんだか人を小馬鹿にしているポーズのようにも見える。

 このほか『戦服将軍俑』や『鎧甲軍吏俑』など、着るものや冠に特徴のある俑が来ていた。近年、中国製の古装ドラマをよく見ているおかげで、古代の甲冑や兵装を以前よりリアルに想像できるようになった気がする。

 漢代は小型の陶俑が主流で、歩兵俑、騎馬俑などがある。騎馬俑の場合、まだ鐙(あぶみ)が一般化していないため、騎乗者は両足の大腿部で馬の胴を締め付けて乗馬していたという解説に唸った。なるほど、騎馬は相当な特殊技術だったのだな。女性の騎馬俑(上から衣装を着せる形式のため、裸体)もあったのは、騎馬民族系なら男女問わず、鐙なしに馬に乗れたということかな。牛、馬、豚、山羊、羊などの動物俑もあり。家畜犬と野生犬の特徴(顔立ち、尻尾)をよく捉えていると思った。

 なるべく出土年と所蔵館を気にしながら見ていたのだが、1970~80年代の出土品もあれば、2000年以降、2010年以降の出土品もけっこうあった。そして、有名どころの秦始皇帝陵博物院、陝西歴史博物館、漢景帝陽陵博物院(2011年に行った!)などのほか、市・県クラスの初めて聞く博物館も多かった。中国、また行きたいなあ…。

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今年はウサギ年/2023博物館に初もうで(東博)

2023-01-03 19:50:03 | 行ったもの(美術館・見仏)

 新春恒例、東京国立博物館に行ってきた。過去の記録を見たら、2021年は新型コロナ対応で予約入館のみ、2022年も予約入館が推奨されていたが、今年はようやくフラリと行っても入れるようになった。

■本館11室 特別企画『大安寺の仏像』(2023年1月2日~3月19日)

 昨年、奈良博の特別展『大安寺の全て』でも展示された木彫仏像群が東博に来ていてびっくり。しかも写真撮影可というサービスぶり。ただし大安寺が保有する奈良時代(8世紀)9躯のうち展示は7躯(四天王、楊柳観音、不空羂索観音、聖観音)で、馬頭観音と十一面観音はいらしていない。ほかに江戸時代の弘法大師坐像と、出土瓦などが展示されている。3月まで展示なので、ゆっくり拝見できそう。ずんぐりして、やや動きの硬い四天王に味がある。

■本館13室(刀剣)(2022年10月25日~2023年1月15日)

 ふだん通り過ぎてしまう展示室だが、入ってすぐ正面に展示されている、古い様式の甲冑に目が留まった。どこかで見覚えがある気がしてキャプションを確かめたら『模造・赤糸威鎧(小野田光彦作)』とある。おお!あれだ!畠山重忠が武蔵御嶽神社に奉納した鎧の模造ではないか。先日、大河ドラマ館で『鎌倉殿の13人』の撮影に使われた兜を見て、気になって調べたものだ。東博スタッフの『鎌倉殿』ファンが展示してくれたとしか思えない。ありがとうございます。

 その他、2室(国宝室)は特集「未来の国宝-東京国立博物館 書画の逸品-」を継続中で、今月は伊東若冲の『玄圃瑤華』。3室(仏教の美術)は、妖しい密教絵画が多くて楽しかった。7室は新春恒例となった国宝『松林図屛風』を公開中で、混み合っていた。同作品は、東博の戦後初の購入作品の一つなのだな。

 ところで、毎年、干支にちなんだ展示「博物館に初もうで」が行われる特別室1・2が閉まっていたので、あれ?そんなはずは?とスマホで調べたら、今年は平成館企画室で開催されていた。

■平成館・企画展示室 『博物館に初もうで 兎にも角にもうさぎ年』(2023年1月2日~1月29日)

 今年のメインビジュアルは、伊万里焼『染付水葵に兎図大皿』(江戸時代・19世紀)のこの子たち。可愛いが、制作当時の美意識から見るとハズレじゃないのかな? どうなんだろう。

 展示は5つのテーマ「兎に角うさぎ」「月のうさぎ」「波に乗るうさぎ」「うさぎはどこだ」「うさぎと人と」で構成する。美術工芸品の中のウサギは、ひたすら愛らしかったり、勇猛果敢だったり、ちょっと嫌なヤツだったり、変化に富んでいる。特に楽しかったのは「うさぎはどこだ」で、『豆兎蒔絵螺鈿箱』(江戸時代・19世紀)は、外側は豆の葉のみで、蓋の裏側にウサギが隠れているという趣向がおしゃれ。『海士玉採図石菖鉢』(明治時代)は鉢を支える四隅の脚がウサギになっている。中国の青銅器に、クマやトラの例はあったように思うけど、ウサギはないのだろうか。明治5~6年の錦絵に登場するウサギが、空前の兎ブームを反映して、洋装の嫌味なヤツになっているのも可笑しかった。

 アジア・ギャラリー(東洋館)7室(中国絵画)は「明末清初の書画」の特集で、これも楽しかった。でも、なかなか画家の名前が覚えられない。

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家族の秘密/中華ドラマ『回来的女児』

2023-01-02 21:08:57 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『回来的女児』全12集(愛奇藝、2022年)

 年末に見たもの。愛奇藝「迷霧劇場」の新作である。このシリーズは、2020年の諸作品が名作すぎて、どうしても点が辛くなってしまうが、本作はまあまあ合格点だと思った。以下【ネタバレあり】であらすじを紹介する。

 舞台は、1997年、坂の多い田舎町である潭岭県(架空の町、広州に近いらしい)。李承天と廖穂芳の夫婦は、脳に障害のある息子・李文卓(20歳くらい)と暮らしていた。彼らには、もうひとり13年前に4歳で失踪したきりの李文文という娘がいた。ある日、夫婦のもとに李文文を名乗る少女が戻ってくる。彼女の正体は、孤児院を脱走してきた陳佑希。同じ孤児院で育った小秀が、李承天一家に文卓の保母兼家政婦として就職したが、少し前に姿を消してしまっていた。陳佑希は、親友の小秀の行方を探すべく、彼女から手紙で知らされた話をもとに、李文文に成りすまして、李承天一家に潜入したのである。ずっと小秀に憧れていた、ちょっと頼りない青年・程威も陳佑希に協力することになる。

 やがて李承天一家の秘密が少しずつ明らかになっていく。妻の廖穂芳には、医薬品の販売等で成功した王重江という恋人がいた。李承天は、文卓が王重江の子供であると分かっていて、廖穂芳と結婚したのである。廖穂芳と王重江の関係が続いていることを、小秀は偶然知ってしまった。そして小秀から、妻の醜聞の口止め料を要求された李承天は、カッとなって小秀を殺してしまい、妻とともに遺体を始末した。もはや陳佑希が娘の李文文でないことに気づいた李承天は、そのように小秀の失踪の「真相」を語った。

 全ての元凶は王重江であると説く李承天、その主張を受け入れた陳佑希と程威は、文卓を誘拐したことに見せかけ、復讐のため、王重江をおびき寄せる。一枚上手だった王重江は彼らの計略を見破り、廖穂芳につきまとい続けてきた李承天を𠮟りつける。陳佑希を守ろうとした程威は、王重江と揉み合いになり、王重江を殺害してしまった。李承天は、遺体を車ごと海に沈めて証拠隠滅を図ったが、数日後に発見されてしまう。

 廖穂芳は王重江の死に不審なものを感じるが、最愛の息子・文卓を守るには、自分も夫も罪に問われるわけにはいかないと考えていた。李承天は、息子の将来を案じる妻の気持ちを利用して偽証を誘い、王重江殺害の罪を程威に着せようとする。しかし、ずっと事件を追ってきた警察官の程旭(程威の兄)はついに真相にたどりつく。

 逮捕された李承天は、何とか死刑を回避し、いつか本当の娘の李文文が戻ってくるのを待ちたいと嘆願する。しかし李文文は、すでに13年前、強盗犯によって自宅で殺害されていた。現場を発見した廖穂芳は、幼い文卓が犯人ではないかと疑い、その遺体を隠していたのだった。絶望する李承天。やっぱり中国人にとっては、自分の血のつながる子供だけが本当の子供という意識が強いのかなと思った。救いようのない結末だが、いちおうドラマは、孤児院を卒業した陳佑希が開いた美容院を文卓が手伝っており、そこに刑期を終えた程威が訪ねてくるという、明るい未来を感じさせるシーンで終わる。

 序盤で怖さ・胡散臭さ全開だった廖穂芳や王重江の印象が、気がつくと好転しているのと逆に、気の弱い優しいパパだった李承天が、じわじわと本性を現わしていくのが本作の見どころである。出演している俳優さんはみんな巧い。事件の根本は男女の不倫関係なのだが、妙に現代風にせず、いかにも90年代中国の片田舎のおじさん・おばさんに造型している(ファッションや髪型など)のが、味わい深かった。警官コンビの老彭(銭漪)と程旭(代旭)はどちらも好きな俳優さん。特に代旭さんが好きなので、程旭がんばれ~と応援しながら見ていた。なお、愛奇藝(iQIYI)では「戻ってきた娘の秘密」というタイトルで、日本語字幕版も同時公開されている。私は中文字幕版で視聴したが、すごい時代になったものだ。嬉しい。

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2022年11-12月展覧会拾遺

2023-01-01 14:07:27 | 行ったもの(美術館・見仏)

年明けは、昨年の棚卸しから。

府中市美術館 『アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで』(2022年9月23日~12月4日)

 19世紀後半、産業革命による工業化の波の中で、「すべての人の生活に美を」の理想を掲げたウィリアム・モリスと賛同者たちが生み出したテキスタイルや壁紙、家具等を展示。どのデザインも美しく魅力的だったが、日に日に貧しくなりゆく日本で見ると、まぶしすぎて少しつらかった。

戸栗美術館 開館35周年記念特別展『古伊万里西方見聞録展』(2022年7月29日~11月6日)

 17世紀半ばから約1世紀の、輸出時代の古伊万里を展観。中国の輸出事業の縮小を背景に東南アジアへの輸出が始まり、次いでオランダを通じて西欧への輸出が本格化し、熱狂的な歓迎を受けるも、1684年以降、中国が輸出事業を再開すると伊万里焼の輸出量は次第に減少し、1757年にオランダ東インド会社の公式輸出記録は途絶える。いつの時代も、ブーム(流行)は終わるものなんだなあ、何かを残しつつも。

根津美術館 特別展『将軍家の襖絵』(2022年11月3日~12月4日)

 室町幕府(足利将軍邸)の会所の襖絵を再構築する試み。文献から分かる「画題」をもとに、規模と形式が近い同時代の絵画を提示し、鑑賞者の想像によって復元を促す。広島・ウッドワン美術館所蔵の伝・天章周文筆『四季山水図屏風』や個人蔵の雲谷等益筆『韃靼人狩猟図屏風』など、貴重な作品を見る機会をつくってくれたのはありがたいが、うーん、知的な要求水準が高すぎるのか、いまいち楽しめなかった。

庭園美術館 『旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる』(2022年9月23日~11月27日)

 旅をテーマにした「アンソロジー展示」。中心を占めるのは、庭園美術館の本館建築に大きな影響を与えた朝香宮夫妻の100年前の欧州旅行だが、私は2011年の展覧会『朝香宮のグランドツアー』を覚えているので、むしろそれ以外の展示、高田賢三の欧州旅行とアジアを意識したファッションデザイン、鉄道資料蒐集家・中村俊一朗のコレクションなどが印象に残った。

松岡美術館 『松岡コレクション めぐりあうものたち Vol.3』(2022年11月1日〜2023年2月5日)

 「館蔵中国明清絵画展」が気になって見に行った。張宏筆『山水画冊』(墨画淡彩)の平明な風景が気に入って眺めているうち、大和文華館で何度か見ている『越中真景図冊』の人だ!と思い出した。石濤の『墨竹図』は墨の濃淡の使い方が等伯の『松林図』を思わせた。彩色画では呂紀の『薔薇図巻』が美しかった。サザンカみたいな薔薇。

永青文庫 秋季展『永青文庫漆芸コレクション かがやきの名品』(2022年10月8日~12月11日)

 2022年は蒔絵・漆芸をテーマにした展覧会が多かったが、その掉尾を飾る展覧会。ただし16年ぶりの展示だという国宝『時雨螺鈿鞍(しぐれらでんくら)』は展示替えで見逃してしまった。しかし私の好みは、蒔絵より中国産の堆朱や堆黒。それに細川忠興所用の『瑞獣彫木彩色兜掛』(17世紀)、労働風景を描いたところが珍しい『田植蒔絵硯箱』(18世紀、農民が、メキシカンハットみたいな帽子をかぶっている)など、珍しい作品が見られたのもよかった。

アーティゾン美術館 『パリ・オペラ座-響き合う芸術の殿堂』(2022年11月5日~2023年2月5日)

 全く予備知識がなかったので、1669年にルイ14世によって設立された王立音楽アカデミーが前身であること、1875年に完成した歌劇場は設計者の名に由来しガルニエ宮(オペラ・ガルニエ)とも呼ばれること、1989年にバスティーユ歌劇場(オペラ・バスティーユ)が完成し、現在に至ることなど、全てこの展覧会で学んだ。バレエのコスチュームを身につけた「太陽王」ルイ14世の肖像画があったのにびっくりしたが、この人はバレエの発展に尽力しただけでなく、自分でも踊ったのね。オペラ(歌劇)に関する展示もあったが、重点はバレエである。ドガやマネなど、オペラ座と踊り子たちを描いた作品も多数展示されていた。バレエダンサー(男女)の肖像画には、貴族や名士の肖像画にはない親しみを感じた。

渋谷区立松濤美術館 『ビーズ-つなぐ かざる みせる:国立民族学博物館コレクション』(2022年11月15日~2023年1月15日)

 はじめに「さまざまな部材に穴を開け、複数個を糸などでつないだもの」という本展の「ビーズ」の定義が示される。したがって、団扇みたいに大きな貝殻をつないだものもビーズ。動物の骨や牙をつないだものもビーズ。花のレイもビーズの一種である。昭和生まれには懐かしい、キラキラ光るビーズ飾りのセーターやハンドバッグもある。民博の展示らしく、世界の文化の多様性と共通性を自然に学ぶことができる。なお、入館日当日に「ビーズ(さまざまな部材に穴を開け、複数個を糸などでつないだもの)を身に着けてご来館されたお客様」は2割引で入館できるそうだ。この特典も楽しい。

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