■神奈川県立金沢文庫 特別展『十二神将~修理完成記念特別公開~』(2018年3月16日~5月6日)
平成23年(2011)より5年間にわたって行われた十二神将像(絵画)の修理完成を記念し、修理後初めて公開する。12幅揃いでの展示は14年ぶりだという。過去のブログをたどってみたら、私は2010年の特別展『金沢文庫の絵画』で亥神と辰神を見ている。そのときも「記憶にない」と驚いているが、今回も、ほぼ初見のような新鮮な気落ちで見入った。称名寺に伝わる十二神将像は鎌倉時代の作。一神ずつ12幅に分けて描いた作品としては、現存最古かつ孤立した例になるそうだ。
背景をはじめ、衣服にも寒色が多用されており、鎧・兜や宝冠をあらわす金泥との対比が豪華である。中央に神将を大きく描き、周囲に小さく眷属(?)などを描く。寅神の場合だと、真っ赤な体の武闘派の童子が2人、みずら頭の大人しげな童子が1人、髭の文官が1人、女性が1人。合計5人はどの画像でも変わらないが、辰神は女性が2人だったり、巳神は成人男性が2人だったり、組み合わせが少しずつ異なる。また十二神将は十二支に対応しており、頭部にシンボルを載せているほか、足元にも動物が描かれている。大きさはさまざまなので、龍や馬はすぐ分かったが、サルやイノシシはけっこう探した。ネズミはイタチみたいにデカかった。画幅の最上部の左右には2つの円輪が配され、本地仏と七曜星(重なるものあり)が描かれている。
展示室には、春・東・木・緑に対応する寅神から展示が始まり、丑神で終わる流れになっていた。五行思想に基づき、寅・卯が春・東で、辰が土用・中央、巳・午が夏・南で、未が土用・中央というように、2神おいて1神を土用に対応させている。個人的に好きなのは、「静」の寅神、「動」の辰神と戌神。真っ赤な顔の午神は、なぜか人差指で下唇を押さえていて(ものを欲しがる子どもみたい)ちょっとかわいい。
十二神将像は称名寺の灌頂堂(称名寺絵図に描かれた両界堂)に伝わった。かなり特殊な動機で制作されたと考えらえることから、おそらく蒙古の再来襲に備え、国家護持のためにつくられたが、次第に当初の用途を離れ、修行者を悩ませる「時媚鬼」などを払うものとして、灌頂堂に備えられるようになったのではないか、という推理が非常に面白かった。
あわせて、神奈川県下の仏教絵画の名品をいろいろ見ることができた。『焔摩天曼荼羅』(鎌倉時代)は、どこか寸足らずな閻魔王と冥官たちがゲームのキャラみたいでかわいい。白象に乗る焔摩天は美形。また、龍華寺から室町時代のものと江戸時代のものと、2種の両界曼荼羅が出ていた。江戸時代のものは、実際に灌頂の儀式で敷曼荼羅として使われたものということだが、やや単純化された色と図像がきれいだった。
■鎌倉国宝館 特別展『仏像入門-のぞいてみよう!ウラとワザ-』(2018年3月10日~4月15日)
仏像の基礎知識とともに、仏像の背面や底面、納入品、造像背景など仏像の「ウラ」と、材質やつくり方、彩色技法など仏像づくりの「ワザ」を紹介する特別展。平常展示の十二神将立像の一部をキャラクター化した「ねずみ隊長(片目を閉じて注目)」「とら隊員(何でも前のめり)」「うさぎ隊員(額に手をかざして見物)」が見どころを紹介する。せっかくなので、あとの9躯も順番にキャラ化してほしい。
平常展示はいつもの顔ぶれで、特別展エリアには、円覚寺の阿弥陀如来及び両脇侍像(善光寺式)とか、建長寺山門の小さな五百羅漢像の一部とか、巨福呂坂町内会の歓喜天立像とか、けっこう珍しいものも出ていた。市場公会堂の十一面観音菩薩立像(江戸時代)はあまり記憶にない仏像だが、なかなかよかった。仁王像玉眼木型(江戸時代)は、水晶を玉眼に削り出すための木型。パソコンのマウスみたいなかたちをしている。日向薬師の仁王像に関係するものとの解説あり。個人蔵。
仏像だけかと思っていたら、参考展示の絵画類も楽しめる展覧会だった。建長寺の『釈迦三尊図』1幅(南宋時代)は絢爛、美麗。中央の釈迦如来は大きな宝冠を被り、光背を囲む大きな瑞雲。頭上には天蓋が浮かぶ。普賢と文殊は、白象と獅子に乗っているのだが、背中に脚つきの椅子を載せたような、不思議な台座に乗っている。ただ、意外と象に乗る輿のかたちとしては、あれが正しいのかもしれない。国宝館の『出山釈迦図』(明代)もよかった。光明寺の『阿弥陀聖衆来迎図』はピンクや水色など、パステルカラーの光背をつけた聖衆が音曲を演奏していて、楽しそうでかわいい。神武寺の『大威徳明王像』は江戸時代の模写だが、色鮮やかで迫力があった。
平成23年(2011)より5年間にわたって行われた十二神将像(絵画)の修理完成を記念し、修理後初めて公開する。12幅揃いでの展示は14年ぶりだという。過去のブログをたどってみたら、私は2010年の特別展『金沢文庫の絵画』で亥神と辰神を見ている。そのときも「記憶にない」と驚いているが、今回も、ほぼ初見のような新鮮な気落ちで見入った。称名寺に伝わる十二神将像は鎌倉時代の作。一神ずつ12幅に分けて描いた作品としては、現存最古かつ孤立した例になるそうだ。
背景をはじめ、衣服にも寒色が多用されており、鎧・兜や宝冠をあらわす金泥との対比が豪華である。中央に神将を大きく描き、周囲に小さく眷属(?)などを描く。寅神の場合だと、真っ赤な体の武闘派の童子が2人、みずら頭の大人しげな童子が1人、髭の文官が1人、女性が1人。合計5人はどの画像でも変わらないが、辰神は女性が2人だったり、巳神は成人男性が2人だったり、組み合わせが少しずつ異なる。また十二神将は十二支に対応しており、頭部にシンボルを載せているほか、足元にも動物が描かれている。大きさはさまざまなので、龍や馬はすぐ分かったが、サルやイノシシはけっこう探した。ネズミはイタチみたいにデカかった。画幅の最上部の左右には2つの円輪が配され、本地仏と七曜星(重なるものあり)が描かれている。
展示室には、春・東・木・緑に対応する寅神から展示が始まり、丑神で終わる流れになっていた。五行思想に基づき、寅・卯が春・東で、辰が土用・中央、巳・午が夏・南で、未が土用・中央というように、2神おいて1神を土用に対応させている。個人的に好きなのは、「静」の寅神、「動」の辰神と戌神。真っ赤な顔の午神は、なぜか人差指で下唇を押さえていて(ものを欲しがる子どもみたい)ちょっとかわいい。
十二神将像は称名寺の灌頂堂(称名寺絵図に描かれた両界堂)に伝わった。かなり特殊な動機で制作されたと考えらえることから、おそらく蒙古の再来襲に備え、国家護持のためにつくられたが、次第に当初の用途を離れ、修行者を悩ませる「時媚鬼」などを払うものとして、灌頂堂に備えられるようになったのではないか、という推理が非常に面白かった。
あわせて、神奈川県下の仏教絵画の名品をいろいろ見ることができた。『焔摩天曼荼羅』(鎌倉時代)は、どこか寸足らずな閻魔王と冥官たちがゲームのキャラみたいでかわいい。白象に乗る焔摩天は美形。また、龍華寺から室町時代のものと江戸時代のものと、2種の両界曼荼羅が出ていた。江戸時代のものは、実際に灌頂の儀式で敷曼荼羅として使われたものということだが、やや単純化された色と図像がきれいだった。
■鎌倉国宝館 特別展『仏像入門-のぞいてみよう!ウラとワザ-』(2018年3月10日~4月15日)
仏像の基礎知識とともに、仏像の背面や底面、納入品、造像背景など仏像の「ウラ」と、材質やつくり方、彩色技法など仏像づくりの「ワザ」を紹介する特別展。平常展示の十二神将立像の一部をキャラクター化した「ねずみ隊長(片目を閉じて注目)」「とら隊員(何でも前のめり)」「うさぎ隊員(額に手をかざして見物)」が見どころを紹介する。せっかくなので、あとの9躯も順番にキャラ化してほしい。
平常展示はいつもの顔ぶれで、特別展エリアには、円覚寺の阿弥陀如来及び両脇侍像(善光寺式)とか、建長寺山門の小さな五百羅漢像の一部とか、巨福呂坂町内会の歓喜天立像とか、けっこう珍しいものも出ていた。市場公会堂の十一面観音菩薩立像(江戸時代)はあまり記憶にない仏像だが、なかなかよかった。仁王像玉眼木型(江戸時代)は、水晶を玉眼に削り出すための木型。パソコンのマウスみたいなかたちをしている。日向薬師の仁王像に関係するものとの解説あり。個人蔵。
仏像だけかと思っていたら、参考展示の絵画類も楽しめる展覧会だった。建長寺の『釈迦三尊図』1幅(南宋時代)は絢爛、美麗。中央の釈迦如来は大きな宝冠を被り、光背を囲む大きな瑞雲。頭上には天蓋が浮かぶ。普賢と文殊は、白象と獅子に乗っているのだが、背中に脚つきの椅子を載せたような、不思議な台座に乗っている。ただ、意外と象に乗る輿のかたちとしては、あれが正しいのかもしれない。国宝館の『出山釈迦図』(明代)もよかった。光明寺の『阿弥陀聖衆来迎図』はピンクや水色など、パステルカラーの光背をつけた聖衆が音曲を演奏していて、楽しそうでかわいい。神武寺の『大威徳明王像』は江戸時代の模写だが、色鮮やかで迫力があった。