見もの・読みもの日記

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日本美術史のアップデート/雑誌・芸術新潮「最強の日本絵画100」

2018-04-28 23:55:10 | 読んだもの(書籍)
○雑誌『芸術新潮』2018年5月号「これだけは見ておきたい/最強の日本絵画100」 新潮社 2018.5

 絵画に限らず、この手の企画が大好きである。『芸術新潮』には「神社100選」があったし、文学畑では丸谷才一さんに『近代日本の百冊を選ぶ』や『千年紀のベスト100作品を選ぶ』があった。どんな分野でも最高級品が100も並ぶと、その圧倒的な祝祭性に目くらましされて、1つや2つ、自分の推しが入っていなくてもどうでもよくなってしまう。とにかく目出度く、もったいない1冊である。

 時代は古代から現代まで。チーフナビゲーターを山下裕二先生がつとめ、古代から鎌倉時代まで(26作品)は泉武夫さん、室町時代から江戸時代まで(43作品)は狩野博幸さん、明治時代以降(31作品)は野地耕一郎さんとの対談形式で進む。時代区分ごとに山下先生と対談者の「偏愛ベスト3+α」のコラムがあるのも楽しく、今回は1点ものの肉筆絵画から選んでいるため、別枠で「最強の浮世絵8選」が建てられている。また100作品は物故者に限られているため、最後に現役作家4人の作品が番外編として紹介されている。実に手厚い目配りである。

 「これだけは見ておきたい」100作品は、だいたい見たことのある、少なくとも存在を知っている絵画だった。知らなかった作品を挙げていくと、まず東寺の『西院曼荼羅』(両界曼荼羅)。何度も見ているのだが、絵画的な鑑賞をしたことがなかった。金剛峯寺の『仏涅槃図』(応徳涅槃図)も記憶にない。和様の仏画の誕生を感じさせる、優雅な色合い。選外だが泉先生が「個人的に好きな作品」という『親鸞聖人絵伝』(西本願寺蔵)も興味深い。画巻ではなく縦型の掛物なのだな。箱根山の雪景色が美しい。

 中世後期~近世では土佐光起の『秋草鶉図屏風』(名古屋市博物館)を知らなかった。『八千代太夫図』(角屋保存会)も。池大雅『漁楽図』(京博)、浦上玉堂『凍雲篩雪図』(川端康成記念会)は見ているかもしれないが記憶にない。近代絵画では、菊池容斎『呂后斬戚夫人図』(静嘉堂)に驚く。これは…残酷すぎて、なかなか展示できないだろうなあ。不染鉄の『山海図絵』(木下美術館)は見ていない。よく知らない画家で、昨年、東京ステーションギャラリーでやっていた展覧会を見逃してしまった。田中一村『アダンの海辺』(岡田美術館)も気になりながら、見ていない。

 よくぞこれを選んでくれた!と大喜びしたのは、平安仏画の『五大力菩薩像』(和歌山・有志八幡講十八箇院)。本物のサイズ感を思い出すと身震いするやつ。『花園上皇像』(長福寺)が入っていたのは笑ってしまった。『かるかや』(サントリー美術館)もうれしい。南画は苦手という山下先生が、例外的に選んでくれた林十江の『蜻蛉図』(茨城県立歴史館)と選外に挙げた霊彩『寒山図』(大東急文庫)は私も好き。五姓田義松『老母図』と山本芳翠『浦島図』は、ほんとによくぞ選んでくれたなあ。地味に福田平八郎『雨』も好き。

 逆に、これが外された!と悲憤慷慨したものは、実はあまりないのだが、園城寺(三井寺)の『黄金不動明王画像』(黄不動の原本)は秘仏で写真を載せられないということで選外になっている。残念。鏑木清方は山下先生が『一葉女史の墓』に固執しているが、私は野地先生の推す『妖魚』がよかった。そういえば、片岡球子が入っていないのかあ。黒田清輝は『智・感・情』でなく別の作品がよかったなあ、など、近代絵画は、見ているとだんだんいろいろなことが言いたくなる。

 あと、中国絵画(日本にある)が対象外とされているのは当然のようだけど、昨年の「国宝展」では、中国伝来の絵画も茶器も来日中国僧の墨蹟も日本の「国宝」のうちだった。本書は、わりと注意深く「日本的なもの」を選り分けようという意識が感じられる(高松塚古墳壁画とか、藤田嗣治の絵に関する言及)。日本美術史にはいろいろな視点があることを考えておきたい。

 対談形式で進む、選者たちの作品評は読みごたえがある。気楽な言葉で、本質をついた批評、気になる発言を多々されている。これは、編集さんがよい仕事をしているのだと思う。狩野先生の「二曲屏風を絵画として成立させたのが宗達です」は考えたことがなかった。「近世絵画は国宝少なすぎ」は本当にそうだと思う。ちなみに本書の100作品のうち、平成30年度の新指定で若冲の『果蔬涅槃図』が重文になり(ゆるい重文w)、表紙を飾っている金剛寺の『日月山水図屏風』は国宝になった。おめでとうございます。
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