見もの・読みもの日記

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看板に偽りなし/秘蔵!重要文化財「長谷雄草紙」全巻公開(永青文庫)

2023-11-24 20:37:07 | 行ったもの(美術館・見仏)

永青文庫 秋季展『秘蔵!重要文化財「長谷雄草紙」全巻公開-永青文庫の絵巻コレクションー』(2023年10月7日~12月3日)

 私の大好きな『長谷雄草紙』が「全巻公開」って本当?と疑いながら、会期が始まってすぐに見にいったら本当だった。そろそろ終了なので、もう1回見てきたところで感想を書く。冒頭のパネルには「当館では14年ぶり」「初めて全画面を開けて展示します」と書いてあった。14年前の2009年『源氏千年と物語絵』展の記録は、このブログ内に残っているが、なんと『長谷雄草紙』を全画面見るには8回通わなければいけないという、血も涙もない展覧会だった。まあ4階展示室が造られる前だから、施設の制約上、やむを得なかったことは理解する。

 今回、ドキドキしながら4階展示室に入ったら、部屋の一辺を使った展示ケースに『長谷雄草紙』がずず~っと全開になっていて感激した。この絵巻、全体に劇画調である。描線の太さが一定でなく、けっこう変化に富む。人物はだいたい写実的なプロポーションだが、やや顔が小さめだと思う。冒頭は謎の男(実は鬼)が長谷雄の屋敷を訪ねてきて双六の勝負を持ちかけるシーン。門の内側に停まっている牛車に九曜紋が描かれている。肥後熊本藩細川氏と何か関係が?と思ったが、そういうわけではないらしい。九曜紋は「交通安全のお守りの役目の紋様だった」という話が、以下の記事で紹介されている。

週末いきたい!ストーリー展開がすごい絵巻が見られる展覧会 長谷雄草紙(永青文庫)やまと絵展(東博)+22日閉幕まとめ(美術展ナビ 2023/10/19)

 謎の男の誘いに乗った長谷雄は、牛車にも乗らず、従者も連れず、庶民の暮らすエリアを歩いていく。画面の下の方、屋根の上に飛び出ている稲わらの束のようなものが気になって調べているのだが、なんだったか思い出せない。

 朱雀門に到着。はじめに基壇、次に楼閣の窓だけを描いて、門全景がどれだけ大きいかを読者の想像に任せるのも巧い。今回の展示は、絵巻の見どころに簡単な解説が添えられているのだが、「長谷雄の賽を打ち下ろした音が、まるで漫画のように放射状の線で表現される」とあって、ニッコリしてしまった。14年前(かな?)この線を見つけたときは、急に絵師が身近に感じられて嬉しかったので。

 双六勝負に負けた鬼は、約束どおり、長谷雄のもとに絶世の美女を連れてくる。この美女、少し体をひねって簾をくぐる後ろ姿が色っぽい。今回、壁のパネルには翻刻全文が掲示されている。これを読みながら絵巻を楽しむことで、この作品は、絵もいいが、文章もいいことにあらためて気づいた。美女を得た長谷雄が「このよにかかる人ばやあるべき、とあやしきことかぎりなし」という最初の驚きから、日を経るごとに「かた時もたちさるべくもおぼえざりけり」というベタ惚れ状態になり、「かならず百日としもさすべき事かは」という身勝手な解釈で、鬼との約束を破って女に触れてしまう「男性あるある(?)」の心理が、平易な言葉で活写されている。

 その結果、大学者の長谷雄は鬼から「君は信用こそおはせざりけれ」と罵倒され、脅迫されてしまう。一心に北野天神を念じると「びんなきやつかな、たしかにまかりのけ」という(北野天神の)怒りの声が空に響いて、鬼は消え去った。けれども物語の結び「いかばかりか、くやしかりけん」が、せっかくの苦労を台無しにされた鬼に同情しているように読めるのがおもしろい。

 さて、本展には、このほかにも熊本藩や細川家ゆかりの絵巻や奈良絵本が多数展示されていた。熊本藩では福田太華(1796-1854)などが古絵巻の模写の御用を仰せつかった。展示には『蒙古襲来絵詞』『後三年合戦絵巻』『信貴山縁起絵巻』などの模写が出ていた。護立の回想によれば、ある人から『蒙古襲来絵詞』を細川家へという話があったが、先代(細川護久?)も家令も全く関心がなかったのでまとまらず、子供心に「何という分からない事か」と思ったという。護立は、幕末維新期の混乱で所在不明になっていた『長谷雄草紙』を昭和のはじめに入手した人物でもある。ありがたや。こういう、文化芸術の守護者である政治家や財界人、いまの日本には、すっかりいなくなってしまったなあ。

 室町~江戸時代の、御伽草子っぽい荒唐無稽な物語の絵巻や祭礼・風俗絵巻も楽しかった。熊本藩の藩校・時習館の所蔵印を持つ者も見られた。奈良絵本で目を引いたのは『絵入太平記』全83冊。太平記を奈良絵本化した唯一の作品だという。なお、「熊本大学附属図書館寄託」になっているものも多かった。


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