見もの・読みもの日記

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目で見る日本の精神史/途中下車で訪ねる駅前の銅像(川口泰生)

2015-01-27 21:22:42 | 読んだもの(書籍)
○川口泰生『途中下車で訪ねる駅前の銅像:銅像から読む日本の歴史と人物』(交通新聞社新書) 交通新聞社 2014.10

 「日本のように駅前に数多くの銅像、石像、モニュメントが設置、建立されている国は他にないであろう」と著者は語る。私は外国の駅をあまり利用したことがないので、何とも言えないが…そうなのかなあ。本書には、日本全国の駅や停車場前に建てられた歴史上の人物、または集団の銅像(石像、モニュメント含む)110項目を取り上げ、写真入りで紹介している。

 楽しみ方はいろいろある。人物の選択や造形には、近代の日本人が、どういう歴史上の人物を顕彰しようとしたか、言葉を変えると、日本の歴史を「どうあってほしい」と願っていたかが透けて見えて、たいへん面白い。本当は、銅像の建立年代がもう少し詳しく分かると、戦前・戦後・近年で、日本人の精神史の移り変わりが分かって、より面白いのであるが。

 それから、なぜ、この場所にこの人物?というのもある。町おこしや郷土愛を育てるため、銅像を建てることにしたものの、適当な人物がいなくて、ずいぶん困ったんじゃないかなと勘ぐりたくなるものも。記紀に登場するヤマトモモソヒメの銅像は、当然奈良県内かと思ったら、琴平電鉄一宮駅に隣接する田村神社にあるとか。和気清麻呂像が東西線竹橋駅前にあることは、全く気づいていなかった。「更級日記」の作者・菅原孝標女の像は、生まれ育った上総国府が、現在の千葉県市原市にあったと推定されていることから、内房線五井駅前にある。女性の銅像は、だいたい視線を少し上に向け、必要以上にキリッと「雄々しい」スタイルが多い。制作年代も新しいんじゃないかなと思う。

 男性像で目立つのは、やはり武士。甲冑姿で馬に乗っているものが多い。大きな騎馬像を鋳造するのは難しかったはずで、その分、建立者も気合が入ったのだろう。二重橋駅前(皇居外苑)の楠木正成像は高村光雲の作で、躍動感に満ちた馬の造形が素晴らしい。でも神戸電鉄湊川駅前の楠木正成像も、前足を天に向かって跳ね上げた馬の姿がなかなかよい。笑ってしまったのは、木曽義仲の故事にちなんだ火牛像。角に松明をくくりつけた牛が何頭もつらなって、天に昇っていく。いや、天から降りてくる。北陸線石動駅、津幡駅にあるというが、本書の図版と同じ写真は、ネットで確認できなかった。石動駅の木曽義仲像はオーソドックスな騎馬像である。

 弁慶とか板額御前(浄瑠璃でおなじみ)とか、半ば伝説上の人物の銅像も存在する。学者や芸術家の銅像が意外と多い、というのも発見だった。石田梅岩、中江藤樹、林子平あたりは順当として、常磐線高萩駅前の長久保赤水像、津山駅前の箕作阮甫像というのは渋くて、嬉しい。七尾駅に長谷川等伯像があるというのはびっくり。上熊本駅前に夏目漱石像があるというのも知らなかった。似つかわしくないけど、まあ仕方ないかなあ。

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