見もの・読みもの日記

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初見の名作/文楽・鎌倉三代記、妹背山婦女庭訓、他

2015-09-15 23:23:31 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 9月文楽公演(2015年9月12日)

・第1部『面売り(めんうり)』『鎌倉三代記(かまくらさんだいき)・局使者の段/米洗ひの段/三浦之助母別れの段/高綱物語の段』『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)・古市油屋の段/奥庭十人斬りの段』

 昼の部。景事『面売り』は、昨年大阪の新春公演で見た。あまり記憶に残っていなかったが、「ズンベラズンベラ」という印象的なフレーズを聞いて、あっと目が覚める思いがした。またしばらく耳を離れそうにない。

 『鎌倉三代記』はたぶん初見。ええ~もう何十年も文楽見てるのに! こんな有名な演目なのに、縁がないと出会えないのだ。設定は鎌倉時代で、源頼家(京方)と源実朝(鎌倉方)が対立。鎌倉方の指揮を執る北条時政の娘・時姫は、頼家の忠臣・三浦之介を恋い慕い、三浦之助の母親のもとに身を寄せていた。というのは表向きで、北条時政→徳川家康、時姫→千姫、三浦之介→秀頼が裏設定。高貴な生まれの(時政の娘じゃ、さほどじゃないだろうというツッコミはなし)時姫が、下々の町娘のように、豆腐の盆を掲げ、徳利をさげて登場するのは、ギャップ萌えなんだろうなあ。三浦之助は見るからに美丈夫だが、どこか思慮に欠け、安心ならないのは、確かに秀頼っぽい。物語をスカッと仕切るのは、百姓・安達藤三郎、実は佐々木高綱、モデルは真田幸村。動作が溌剌としていて、吉田玉男さんは、こういう知的な勇将が似合うと思う。

 『伊勢音頭恋寝刃』は、たぶんテレビで見たことがある。 よく似た大量殺人(?)モノの『国言詢音頭(くにことばくどきおんど)』は、やはりずいぶん昔、劇場で見たことがあって、記憶が混乱していた。『伊勢』の福岡貢のほうが少し(かすかに)救いがあって、いい男の香りがある。しかし、近くにいたお客さんが「え~この結末ぅ~」と戸惑っていたのが可笑しかった。「油屋」は咲大夫さん。年増悪女の万野が、女郎お紺(貢の恋人)に呼びかける「お紺さん~」が、思い切ったカリカチュアふうで笑った。「十人斬り」は咲甫大夫さん。うわーよかったな~と満足していたら、夜の部にも登場して、さらに熱演を聴かせてくれた。タフだなあ。

・第2部『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)・井戸替の段・杉酒屋の段・道行恋苧環・鱶七上使の段・姫戻りの段・金殿の段・入鹿誅伐の段』

 夜の部(16時~)も実は初見の舞台。三段目(山の段)は何度か見たことがあるが、今回上演される四段目は初めてなのである。はじまりの「井戸替」は、長屋の借家人たちが歌い踊る曲がにぎやかで楽しい。酒屋の娘・お三輪は、隣家に住む烏帽子屋の求馬を慕い、既にいい仲になっている。そこに高貴なお姫様(橘姫)が求馬を訪ねてくる。若い男女のリアルな心理戦が聴きどころの「杉酒屋」は咲甫大夫。

 一転して「道行恋苧環」は、男女の恋のかけひきを、舞踊(景事)に近いシンボリックな手法で描く。三味線は四人の連れ弾き。夜の部は床の近くの席だったので、音曲のシャワーを贅沢に浴びて堪能した。たくさん見て来た文楽の演目の中でも、格別にオペラに近い感じがした。

 そして舞台は入鹿の御殿へ。橘姫は蘇我入鹿の娘なのである。追ってきた求馬、実は藤原淡海(不比等。鎌足の子)は、入鹿が盗み取った皇室の宝物、十握の剣(とつかのつるぎ)を取り戻したあかつきには、橘姫と夫婦になることを約束する。橘姫、やっぱり父親より恋人を取るか。さて求馬を追って、御殿に迷い込んだお三輪は、官女たちに田舎育ちをからかわれ、なぶりものにされる。嫉妬に逆上したお三輪を、漁師鱶七、実は藤原氏の忠臣・金輪五郎が刀で刺し、疑着(嫉妬)の相のある女の生き血が、入鹿征伐に役立つと告げる。求馬の役に立つことを喜んで死んでいくお三輪。ううむ、なんというご都合主義。語りは千歳大夫。身体全体を使い、立ち上がると思うような大熱演。

 ラストでは、藤原鎌足が登場(乱入)し、鎌で(笑)入鹿の首を斬ると、斬られた首は宙に躍り上がり、しばらく漂っていたが、淡海に祈り伏せられる。史実と伝説が、いろいろ織り込まれていて楽しかった。人形は、お三輪=勘十郎、求馬=玉男、橘姫=和生。床も舞台の上も、ゆっくり着実に世代交代が進んでおり、これからの10年、文楽を見続けていくことがとても楽しみに感じられた。


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