見もの・読みもの日記

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実は太閤記/太平記英勇伝(平木浮世絵美術館)

2011-03-02 22:40:02 | 行ったもの(美術館・見仏)
平木浮世絵美術館 『国芳描く戦国の武将 太平記英勇伝』(2011年2月5日~2月27日)

 浮世絵はどうも苦手。ただし、浮世絵の中でも「奇想の系譜」につらなる国芳だけは別。というわけで、2006年の開館以来、一度も訪ねたことのなかった平木浮世絵美術館に行ってみることにした。所在地を確かめて、え!ベイエリアにあるのか、と驚く。

 家族連れでにぎわう巨大なショッピングセンター(うわーアメリカみたいだ)の一角にある美術館は、かなり不思議な空間だった。外観は大きな缶詰みたいな円筒形。展示室は楕円形の1室のみ。そこに、江戸の粋を体現した国芳の武者絵が並んでいる。でも、意外と違和感はない。

 冒頭の1枚。青とオレンジの強烈な対照色、同系色の濃淡を重ねて、複雑な文様を摺り出した狩衣装束、茶筅髷の髪の毛一筋一筋まで神経のゆきとどいた凛々しい武者ぶり。おお、確かに国芳だ、と思って、解説を読むと「大多春永(織田信長)」とある。隣りの、古風な大鎧を着込んだ武者には「稲川義基(今川義元)」の文字。しばらくキツネにつままれた心境で、それらを眺めたのち、やっと理解した。

 展覧会のタイトルを見たとき、うーん『太平記』って、あまりよく分からないんだよな…と思っていたのだ。これは、江戸の出版文化の術中に嵌ったも同然。実は、国芳の『太平記英勇伝』は『太閤記』の読み替えなのだ。解説によれば、寛政9年(1797)から享和2年(1802)にかけて出版された『絵本太閤記』は、大ブームを起こし、関連出版物や錦絵が大変な売れ行きを示した。幕府は「天正之頃以来之武者等名前を顕し画候儀」に対し、厳しい出版統制で臨んだ。そのため、文化年間以降は、時代や名前を変えて、規制の網をかいくぐりながら、『太閤記』の絵を描く試みが続けられたのである。

 このアナクロニズムの影響は、けっこう大きいような気がする。私は、かなり大人になってから、実際に戦国時代に使用された南蛮具足や変わり兜を知って、びっくりした。江戸の武者絵に描かれた戦国武将は、みんな源平時代みたいな古風な大鎧を着ている。端午の節句に飾られる武者人形もそうだし。そのわりに大筒や鉄砲は有りなんだなあ。どこまでが虚でどこからが実か、よく分からないところが面白い。

 でも髭面の猛将あり、白面郎あり、ふりそそぐ刃に立ち向かう激しい動きの図もあれば、裃姿でじっと思い入れの図もあり。全50図、見事なほど「キャラ立ち」している。小道具の使い方も巧い。同じ時代を描いて、いろいろと批判の多い今年の大河ドラマの制作者に見せてやりたいと思った。

 全50図の写真と解説、本文翻刻(!!)を収めたミニ冊子「平木浮世絵文庫」(1冊1200円→※詳細)をミュージアムショップで売っている。これ、嬉しいなあ。必要な情報が全てコンパクトに収まっていて文句なし。ハードカバーの豪華図録より、こういう方が絶対嬉しい! 今後の展示企画にあせて、文庫も増えていくことに激しく期待。

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