〇東京芸術劇場 日中国交正常化45周年記念・天津京劇院日本公演『京劇 楊門女将2017』(2017年6月24日)
毎年、この時期に開催される本場の京劇の招待公演を楽しみにしている。今年は天津京劇院だという。天津には、むかし行ったが、清代に建てられた立派な劇場(戯楼)が残っていて、戯劇(演劇)博物館になっていたと記憶している。北京以上に京劇の本拠地というイメージだ。
『楊門女将』については、プログラムに加藤徹さんの解説があるが、『楊家将』の物語の後半にあたる。舞台は北宋、楊という武門の一家が国を守るため、異民族と戦うが、楊家の男たちが次々と戦死したあと、女たちが志を継いで戦うという物語だ。明代には古典小説として成立し、多数の京劇の演目を生んでいるが、『楊門女将』は1950年代に初演され、今日まで愛されてきた名作である。私は中国で少なくとも一度、(観光客向けの劇場で)この演目を見た記憶がある。
第一幕。楊家の大奥様(現当主の母)・佘太君(しゃたいくん)のもとに、辺境から当主・楊宗保の戦死が知らされる。宋の宮廷にも訃報が届く。抗戦派と和睦派の論争になり、皇帝は出陣したいが元帥となるものがいないと嘆く。そこで百歳の佘太君が名乗りをあげ、楊家の娘・嫁たち、そして跡継ぎ息子の楊文広も出陣も決意を表明する。第一幕は動きが少なく、説明的でわりと地味。
第二幕は辺境の戦場。楊家の女将軍たちが率いる宋軍は西夏の軍勢と激しい戦闘を繰り広げる。あれ?敵は金じゃなかったのか?と私が思ったのは『射雕英雄伝』に毒されている。古典小説『楊家将』では、前半は史実に即した遼との戦いだが、後半は荒唐無稽な展開になって、西夏征伐が描かれるのだそうだ。第二幕も筋は他愛なく、派手な衣装と立ち回りを楽しむ。面白かったのは、老練な白馬に桟道を探させる一段。もちろん舞台上に馬はおらず、馬鞭(房つきの棒)のゆらゆらした動きだけで馬の姿を表現するのだ。
楊家の女性たちは、背中に光背状の三角旗(軍勢を表す)。ポンポンで囲んだデコレーションケーキのような冠から二本の長い触角(キジの羽根)が伸びている。甲冑に似せたごつい衣装(実際は軽い)で、戦闘シーンは華麗に舞う。旋回運動につれて、短冊を並べたようなスカートがふわりと広がり、ちらっと足もとが見えるのが色っぽい。楊宗保の妻・穆桂英は白+水色、末娘の楊七娘は黒の衣装で、この二人が主役級。でも、物語上、登場人物の個性があまり描かれないのは残念に思った。文芸作品ではなく、純粋に立ち回りのケレンを楽しむ演目なのかもしれない。穆桂英は王艶(ワン・イェン)さんというベテラン女優さんの予定だったが、怪我のため、立ち回りの多い第二幕は許佩文さんが代演。許佩文さんが演じるはずだった楊七娘は程萌さんが務めた。百歳の佘太君を演じたのは19歳の魏玉慧さん。パワフルな歌唱だった。
昨年に比べて空席が目立つような気がしたが、同じ日に都内で中国の人気漫才師による「相声」公演があったせいではないかと思う。残念。
毎年、この時期に開催される本場の京劇の招待公演を楽しみにしている。今年は天津京劇院だという。天津には、むかし行ったが、清代に建てられた立派な劇場(戯楼)が残っていて、戯劇(演劇)博物館になっていたと記憶している。北京以上に京劇の本拠地というイメージだ。
『楊門女将』については、プログラムに加藤徹さんの解説があるが、『楊家将』の物語の後半にあたる。舞台は北宋、楊という武門の一家が国を守るため、異民族と戦うが、楊家の男たちが次々と戦死したあと、女たちが志を継いで戦うという物語だ。明代には古典小説として成立し、多数の京劇の演目を生んでいるが、『楊門女将』は1950年代に初演され、今日まで愛されてきた名作である。私は中国で少なくとも一度、(観光客向けの劇場で)この演目を見た記憶がある。
第一幕。楊家の大奥様(現当主の母)・佘太君(しゃたいくん)のもとに、辺境から当主・楊宗保の戦死が知らされる。宋の宮廷にも訃報が届く。抗戦派と和睦派の論争になり、皇帝は出陣したいが元帥となるものがいないと嘆く。そこで百歳の佘太君が名乗りをあげ、楊家の娘・嫁たち、そして跡継ぎ息子の楊文広も出陣も決意を表明する。第一幕は動きが少なく、説明的でわりと地味。
第二幕は辺境の戦場。楊家の女将軍たちが率いる宋軍は西夏の軍勢と激しい戦闘を繰り広げる。あれ?敵は金じゃなかったのか?と私が思ったのは『射雕英雄伝』に毒されている。古典小説『楊家将』では、前半は史実に即した遼との戦いだが、後半は荒唐無稽な展開になって、西夏征伐が描かれるのだそうだ。第二幕も筋は他愛なく、派手な衣装と立ち回りを楽しむ。面白かったのは、老練な白馬に桟道を探させる一段。もちろん舞台上に馬はおらず、馬鞭(房つきの棒)のゆらゆらした動きだけで馬の姿を表現するのだ。
楊家の女性たちは、背中に光背状の三角旗(軍勢を表す)。ポンポンで囲んだデコレーションケーキのような冠から二本の長い触角(キジの羽根)が伸びている。甲冑に似せたごつい衣装(実際は軽い)で、戦闘シーンは華麗に舞う。旋回運動につれて、短冊を並べたようなスカートがふわりと広がり、ちらっと足もとが見えるのが色っぽい。楊宗保の妻・穆桂英は白+水色、末娘の楊七娘は黒の衣装で、この二人が主役級。でも、物語上、登場人物の個性があまり描かれないのは残念に思った。文芸作品ではなく、純粋に立ち回りのケレンを楽しむ演目なのかもしれない。穆桂英は王艶(ワン・イェン)さんというベテラン女優さんの予定だったが、怪我のため、立ち回りの多い第二幕は許佩文さんが代演。許佩文さんが演じるはずだった楊七娘は程萌さんが務めた。百歳の佘太君を演じたのは19歳の魏玉慧さん。パワフルな歌唱だった。
昨年に比べて空席が目立つような気がしたが、同じ日に都内で中国の人気漫才師による「相声」公演があったせいではないかと思う。残念。