見もの・読みもの日記

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中世を感じる/法会への招待(金沢文庫)

2023-01-28 23:00:08 | 行ったもの(美術館・見仏)

神奈川県立金沢文庫 特別展『法会への招待-「称名寺聖教・金沢文庫文書」から読み解く中世寺院の法会-』(2022年12月2日~2023年1月29日)

 人と物が集まり、史料が生成する場としての法会という視点から、「称名寺聖教・金沢文庫文書」を読み解き、中世寺院法会の豊穣な世界を紹介する。文書中心の地味な展示だが、アーカイブズ好きには面白かった。

 第1章「年中行事と形式」では、年中行事として行われていた様々な法会(仏教の行事・集会)を見て行く。1月の修正会は、奈良時代に国分寺等で行われた吉祥悔過に起源を持つらしい。そういえば、奈良の薬師寺や法隆寺の修正会も本尊は吉祥天である。修正会は、称名寺や瀬戸神社でも行われていた記録がある。修二会は、称名寺で開催されたことを示す史料はないそうだが、京都の寺院での法会を様子を、ちゃんと情報収集して記録している。

 2月は涅槃会もあり。『仏涅槃図』(南北朝時代、龍華寺、金沢光徳寺旧蔵品)は、裏彩色の欠損が惜しまれると解説にあったけれど、かえって淡泊な色合いを好ましく感じた。画面の右下、鹿の後ろにいる黒白ぶちの動物が気になったが、ネコ?ウサギ?よく分からなかった。3月は弘法大師の御影供、4月は仏生会、7月は盂蘭盆会がある。『仁治三年盂蘭盆会事』という資料には、仁治3年(1242)鎌倉の永福寺で「大施主殿下」が盂蘭盆会を執り行ったことが記されている。将軍職にあった藤原頼経だろうか。『吾妻鏡』は仁治3年条が現存しないそうで、こういう個別の文書から判明することも、いろいろあるのだな。

 第2章「本尊と荘厳」で目を引いたのは、称名寺伝来の維摩居士坐像(鎌倉~南北朝時代)。脇息にもたれ、足を投げ出してくつろいだポーズなのが宋風。見たことあったかな?と思って調べたら、少なくとも2007年に見ていた。同じく称名寺の古幡残欠(ハンカチみたいな四角い布)は2件出ていて、幔幕の上に群竹と鳳凰を配した絵画的な図案は鎌倉時代、花唐草文は元時代、と注記されていた。どちらも黄茶色と緑色の、単純な配色。

 第3章「生成する文書・聖教」は、法会の開催準備の始まりから、誰がどのような文書を作成するのかを、時系列に沿って解説したもの。施主から寺院へ祈祷の命令・依頼があると、次に僧侶を選んで招請する。祈祷が済むと「巻数(かんじゅ)」という形式で完了報告を行う。これを受け取った施主は「巻数請取状」を返信する。いずれも形式の定まった文書なので、参照用の文例集が作られているのも面白い。

 『後醍醐天皇綸旨案』は、祈祷依頼の綸旨の下書(?)だが「寺名・日付・宛先が不自然に欠損しているのは何らかの意図があったと推測される」という解説が付いていて、プロの見方は違うな~と感心した。『足利義詮御教書』と『足利尊氏御判御教書』は、どちらも文和4年(1355)の4月と6月に相次いで、称名寺に天下静謐の祈祷を求めたもの。南北朝史には詳しくないので、あとで調べてみたら、直前は観応の擾乱だの、武蔵野合戦だの、大激動の時代だったことが分かった。そして当時の有力武将たちから、称名寺の祈祷が頼られていたことも。


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