見もの・読みもの日記

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五月のタイムループ/中華ドラマ『開端』

2022-01-27 20:16:06 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『開端(RESET)』全15集(東陽正午陽光影視有限公司、2022)

 1月11日に配信が始まり、いま大反響を呼んでいるドラマ。いやあ面白かった! 若者好みのSFと見せかけて、ヒューマンドラマであり、犯罪推理劇でもある。しかし【ネタバレ】厳禁ドラマなので、未視聴の方は以下を読まないでほしい。

 2019年5月のある日、中国南方の嘉林市の女子大生である李詩情(趙今麦)は、いつもの路線バスで、うとうと居眠りをしてしまった。誰かの携帯電話の着信音(パッヘルベルのカノン)を聞いて目が覚めたと思った瞬間、乗っていたバスが引火爆発する。不思議なことに、李詩情は再び同じバスの同じ席で目を覚ました。続いてまた同じ着信音が聞こえ、バスが爆発する。三回目、目覚めた李詩情は走行中のバスから下りようとするが成功しない。四回目、五回目も失敗した李詩情は、六回目、隣に座っていた青年を痴漢呼ばわりすることで、なんとか下車に成功する。しかしバスは爆発し、乗客は全員犠牲となる。李詩情は警察の事情聴取を受けるが、タイムループ(循環)を体験したという奇想天外な告白を信用してもらえない。

 そして七回目にバスの中で目覚めた李詩情は、隣の席の青年・肖鶴雲(白敬亭)が、ループに入ってきたことを知る。バスの爆発は、飛び出してきたバイクを避けようとして、対向車線のタンクローリーに激突したことが原因らしいと見極めた二人は、運命の十字路で運転手に注意を促し、事故を回避する。バスは長い橋(跨江大橋)を渡り始めるが、その中ほどで、あの着信音が鳴り、爆発が起こる。タンクローリーとの衝突が主原因ではなかったのだ。ループでもとに戻った二人は、乗客の誰かが爆弾を持ち込んでいると判断し、下車して警察に通報するが、爆発は起きてしまい、かえって警察に疑われる身となる。

 深夜の取調室で眠ってしまった二人は、再びバスの中で目を覚ます。今度は自分たちで犯人を見つけ出そうと決意し、怪しい乗客に次々アプローチしていくが、ループの繰り返しの中で、一見怪しげな乗客たちに、それぞれの人生があり、家族がいることが分かっていく。何度もくじけそうになるが、李詩情は「(乗客たちは)もう見知らぬ他人ではないから」と言って爆発阻止をあきらめない。

 【本格的ネタバレ】そして二人は、ついに犯人を見つけ出すのだが、犯人にも人生と家族があった。犯人は、5年前、同じ路線バスで娘を亡くしていた。その娘・萌萌は、バスの中で痴漢に遭い、逃げ出そうとして跨江大橋の途中で無理やりバスを下り、後続車に撥ねられて死亡したのである。バス会社は真相究明をなおざりにして、賠償金でカタをつけた。ネットでは彼女を嘲笑する動画が今も流れ続けていた。犯人の目的は社会への復讐だった。

 李詩情と肖鶴雲は全ての行動を準備して、最後のループに臨む。バスの中から、電話とショートメールで警察に通報し、犯人の動機が、5年前の事件にあることも知らせる。乗客たちと協力して犯人を取り押さえ、抵抗する犯人に、李詩情は自分が5年間の事件の証拠を持っていることを告げる。踏み込んだ警察は、事件の再捜査を確約する。犯人から奪取した爆弾は河に投げ込まれ、間一髪、バス爆破は阻止された。翌日、李詩情と肖鶴雲はループを抜け出し、新しい一日を迎えた。勇気ある乗客たちは表彰され、それぞれの人生を歩み始めた。萌萌を死に至らしめた痴漢は逮捕され、相応の刑に服すことになった。

 結末は、冷静に考えると疑問もないではないのだが、何をやっても新たな困難が立ち現れる「無理ゲー」状態の中で、全員無事で終われたことに大きなカタルシスを感じた。いつの前にか私も「見知らぬ他人ではない」という気持ちでドラマを見ていたのだ。主人公の二人は、いかにも普通の若者だが、よく頑張った。しっかり者の李詩情に比べると、年上の肖鶴雲のほうが自分勝手で、はじめは自分だけ助かろうとするが、次第に李詩情に影響されていく。

 警察の面々、ベテラン刑事の老張(劉奕君)と息子のような部下の小江の関係性もよかった。老張は、李詩情の荒唐無稽なタイムループ話を黙って全部聴いてくれた。警察は真偽が不確かな通報にも対応してくれるのか?と聞かれて「する」と答え、実際に直ちに行動を起こしてくれる。実は最後の1つ前のループでは、バスの乗客は全員助かったものの老張が殉職してしまう。これで終わらないで!と祈るような気持ちだった。劉奕君さん、反派(悪役)のイメージが強かったのだが、こんな紳士役もできるのかと惚れ直した。

 バスの乗客のひとり、盧笛は、ACG(アニメ・コミック・ゲーム)オタクの青年で、ループと聞くと「8月でもないのに?」と反応する。肖鶴雲がめんどくさそうに「アニメでは一般にループは夏に起きるのさ」と李詩情に解説し、日本製アニメ映画のタイトルを次々に挙げる。本作の設定は5月なのだが、南方の厦門(アモイ)でロケがされていて、明るい陽光には夏の雰囲気が感じられた。


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