見もの・読みもの日記

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蔵出し図録もお楽しみ/洋風画という風(板橋区立美術館)

2024-05-03 22:08:12 | 行ったもの(美術館・見仏)

板橋区立美術館 『歸空庵コレクションによる 洋風画という風-近世絵画に根づいたエキゾチズムー』(2024年5月3日~6月16日)

 今日から始まった展覧会をさっそく見て来た。この春の板美は、いつもの江戸絵画ではなくて『シュルレアリスムと日本』展(2024年3月2日~4月14日)から始まったのだが、これは京都で見たので、東京展は見送ってしまった。

 さて本展は、江戸絵画好きにはおなじみの「歸空庵コレクション」から選りすぐりの作品を展示し、近世絵画に新鮮な風を送り込み、これまでにない表現を切り拓いた洋風画の魅力に迫る。展示リストによれば、全73件のうち1件だけが板美の所蔵で、あとは歸空庵コレクション(同館寄託)である。うち19件は、新たに寄託されたものだという。

 私は何度も同館に通っているので、もちろん見たことのある作品が多かった。しかし滅多に見られない作品揃いなので、テンションが上がりっぱなしだった。入ってすぐの展示ロビーには初期洋風画の『西洋風俗図』(17世紀)から4面。隠者それとも羊飼いの足元にネズミみたいに小さな羊の群れが描かれた作品には「遠近法とは?」というキャプションが添えられていて微笑してしまった。梅湾竹直公(不詳)の『西洋婦人図』は円形の画面に西洋人の男女を描く。男性が全然魅力的に見えないオヤジで、女性は従者の少年とアイコンタクトをしているように見える。

 本展のポスターになっている、安田田麒『象のいる異国風景図』も好きな作品。背中に人を載せた象は見る者にお尻を向けていて、特徴である長い鼻も大きな耳も見えないのだが、ちゃんと象だと分かる。川原慶賀の百面相みたいな『蘭人図』2件も面白かった。何かの模写かもしれないけれど、西洋人を間近に見ていた川原慶賀ならではの作品のような気もする。

 続く第2室は、秋田蘭画から司馬江漢。小野田直武の『新蕨飛虻図』とか『恵比寿図』とか、エキゾチックというより怪しげで気持ち悪くて好き。司馬江漢『西洋風景人物図屏風』は、余白を大きくとり、墨画淡彩に近い雰囲気でサラリと描いたもの。見た記憶がないと思ったら新規寄託品だった。

 第3室は、石川大浪、孟高兄弟を中心に(この二人の名前は、かつて神戸市立博物館の展示で覚えた)。あと世界各国の風俗(だいたい男女ペア)を描いた図巻・屏風も楽しい。これは広渡湖秀『万国人物貼交屏風』から「大清」の図。「大明」と男性の風俗ははっきり描き分けているのだが、女性はあまり違いがない。また「韃靼」の男女は別に描かれている。

 第4室には、亜欧堂田善、安田雷州が出ていて嬉しかった。田善の『三囲雪景図』はいいなあ。遠くに小さく見える筑波山、枯れた田んぼの中の鴫(?)3羽もかわいい。

 第1室(ロビー)に戻って、色彩のきれいな西洋都市風景画のシリーズがあるなと思ったら、作者は春木南溟だった。府中市美術館の江戸絵画展で覚えた名前。オランダ銅版画の模写らしい。

 ほかにも気になる作品が多数あったので、図録があれば買っていこうと思ったら、入口には『歸空庵コレクション 日本洋画史展』の図録が積んであった。奥付は平成16年(2004)8月刊行。前文によると、平成2年(1990)から寄託を受けてきた歸空庵コレクションを「一挙公開」した展覧会だったらしい。思わずスマホで自分のブログを検索したが、私はこの展覧会は見に来ていないようだ。それなら、買っていくか! 半分ほどが白黒図版なのは残念だが、安村敏信先生の解説つきだし、半額割引(750円)のお買得セールだったので。

 そして帰宅後もこの図録をパラパラ眺めている。今回の展覧会には出ていなかったが、別の展覧会で見た記憶のよみがえるものもあり、逆に全く記憶がなくて、見たい!と思うものもあった。気になったのは亜欧堂田善の『異人引き馬図』(絹本著色、図版は白黒)で、え!これは李公麟『五馬図巻』の第2馬図の模写ではないか!! 2019年に東博で「発見」された『五馬図巻』は、清末まで北京の宮廷にあったはずなので、田善は何かの模本を手本にしたのだろう。ずいぶん陰影を濃くして洋風にアレンジしているのがおもしろい。

 こんなに楽しめる展覧会なのに入場無料、全点撮影可。5月6日までは、都営地下鉄ワンデーパス(500円)を使うと、巣鴨~西高島平往復より安くなることも付け加えておく。


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