見もの・読みもの日記

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たばこ、石鹸、チョコレート/モボ・モガが見たトーキョー(たばこと塩の博物館)

2018-05-28 23:31:57 | 行ったもの(美術館・見仏)
たばこと塩の博物館 特別展『モボ・モガが見たトーキョー~モノでたどる日本の生活・文化~』(2018年4月21日~7月8日)

 大正末期から昭和初期の日本は、産業化が急速に進み、洋風のライフスタイルが一般化し、サラリーマンや職業婦人など新しい働き方が生まれ、多くの企業がモダンデザインにこだわった商品や広告を打ち出すようになった。大衆消費時代の始まりである。それから、昭和恐慌、満州事変、そして太平洋戦争開戦、終戦、戦後の復興と進む激動の時代を、石鹸、時計、鉄道、郵便、煙草、お菓子など、身近な「モノ」で振り返る。

 本展は「すみだ企業博物館連携協議会」に参加している5つの博物館の協力で開催された。花王株式会社の花王ミュージアム、セイコーホールディングスのセイコーミュージアム、東武鉄道の東武博物館、公益財団法人通信文化協会が運営する郵政博物館(もと逓信総合博物館)、そして、日本たばこ産業株式会社のたばこと塩の博物館である。あれ?お菓子関係の資料はどこから?と思ったら、さらに森永製菓株式会社が協力していた。

 1923年(大正12年)の関東大震災の後、帝都復興事業によって東京はモダン都市へと変貌を遂げる。街を歩くのは、おしゃれなモダンボーイとモダンガールたち。1930年代(昭和初期)には、生活のあらゆる面に変化が広がる。大衆の必需品となる、廉価で高品質な新装「花王石鹸」が発売されたのが1931年。1932年には、洗髪を楽にする「花王シャンプー」が発売された(固形らしい)。花王社長(二代目)の長瀬富郎は、1934年に長瀬家事研究所を設立して主婦のために家事諸般の啓蒙活動を行ったり、機関誌『家事の科学』を発刊したりした。面白いなあ。このひとのこと、調べたい。

 森永製菓が国産(カカオ豆からの製造ライン)のミルクチョコレートの販売を開始したのは1918年。1930年代には、毎年のように新商品を発売した。当時の多様なチョコレート製品が展示されていたが、現在の一般的なチョコレートより小さめの板型またはカマボコ型で、横文字の目立つ、カラフルでおしゃれな包装紙を使っている。今でもある外国のチョコレートによく似ている。その中でも、ミルクチョコレートとミルクキャラメルは、現在とパッケージが全く変わっていないのがすごい。また、森永製菓は、全国の小売店から希望者を募って「森永ベルトラインストアー」という系列店化を進めた。ベルトラインストアーには、店内設備の改善や接客術の指導、さらにイベントガール「スイートガール」が派遣された。「広告の森永」という呼び名もあったそうで、その一端は同社のデジタルミュージアムで見ることもできる。楽しい。

 たばこは、1931年に元売捌人制度が廃止され、販売・流通を大蔵省専売局が直接担うことになった。中央集権化で商売人が委縮するかと思いきや、専売局は小売店の店頭装飾についても積極的に指導し、アールデコ調のモダンなたばこ屋が街角に出現するようになったという。1930年代には、専売局が各地のデパートで「たばこ関連の美術品」(?)を展示し、記念たばこの販売を行うたばこ展覧会が開かれた。喫煙者がすっかり嫌悪されるようになった現代から見ると、信じられないような話だが、社会の価値観は変わるものだ。1931年には東武浅草駅が開業。同駅には浅草松屋(デパート)が入り、東京に本格的な近代ターミナルが出現した。関西とどちらが早いのだろうか。

 そして、あっという間に戦争の時代がやってくる。戦地の兵士たちの士気を高めるため、慰問用にデザインされたたばこ、キャラメル。東武鉄道は1940年代に入っても「日帰り行楽」パンフレットを作成しているが、「心身壮健」や「武運長久祈願」のためという理由が付けられている。セイコー腕時計の文字盤に「SEIKO」ではなくカタカナで「セイコー」と刻まれていたのも戦争中。「日独伊親善ミルクチョコレート」にも驚く。

 戦後、東武鉄道では、1949年に行楽特急「フライング・トージョー」(東上線、池袋-長瀞)が登場。全ての菓子類の価格統制が撤廃されたのは1950年で、森永製菓は、ミルクキャラメル、ミルクチョコレートを復活させた。たばこ「ピース」のデザイン試作品は1951年。わずか100年の、なんという激動の時代か。そして、生活の色や香りや手触りを、そのまま保存してくれている企業ミュージアムや企業アーカイブズの活動にすごく感謝したいと思った。

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