見もの・読みもの日記

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平安と鎌倉の仏像/空也上人と六波羅蜜寺(東京国立博物館)

2022-03-12 23:32:50 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館 特別展『空也上人と六波羅蜜寺』(2022年3月1日~5月8日)

 2022年が空也上人(903頃-972)の没後1050年に当たることを記念し、上人が創建した六波羅蜜寺に伝わる現存最古の空也上人像など、平安から鎌倉時代の彫刻の名品を公開する。六波羅蜜寺は大好きなお寺で、年1回くらいは立ち寄っているので、新味はないだろうと思いながら、せっかくの東京ご開帳(半世紀ぶり)なので見てきた。会場は1階大階段裏の特別5室である。

 中に入ると、最初に迎えてくれるのは地蔵菩薩立像(平安時代)。左手に長い毛髪の束を携えており、鬘掛地蔵(かずらかけじぞう)と呼ばれるもので、私の大好きな仏像のひとつである。横から見ると、体部は薄く、頭部は絶壁気味、整った鼻筋、うつむく眼差し。額が広いため、やや幼い印象を受ける。繊細優美で、どこか沈鬱な感じがする。

 首が肩にめり込んだような閻魔王坐像(鎌倉時代)の隣りには、絵画資料の『十王図』(陸信忠筆、南宋~元時代)が3幅(かな?)出ていた。十王に仕える官吏たちは無地の官服なのに、地獄の獄卒たちの肌着や脚絆が派手でカラフルなのが面白かった。江戸の浮世絵に描かれた鳶職や火消みたいだった。

 展示室の奥には、壁面に沿って、薬師如来坐像の左右に四天王立像が並ぶ。全体に大ぶりで、特に大きな頭部が目立つ薬師如来坐像は、空也上人の弟子の中信が10世紀後期に造像したと伝えられるもの。四天王立像は、空也上人が六波羅蜜寺の前身である西光寺の本尊十一面観音菩薩立像(現・六波羅蜜寺の秘仏本尊)を造立した際、同時に造像したと伝えられる。この四天王像は、あまり評判を聞かないけれど、六波羅蜜寺の宝物館に行くと、いつもいいなあと思って眺めている。衣の袖や裾にあまり派手な動きがなく、ストンと垂れている感じがよい。増長天だけは鎌倉時代の後補で、少し顔が大きかったり、袖が風をはらんでいたりするが、全体の調和を乱すほどではなく、よくできている。

 展示室の右壁面には、運慶作の地蔵菩薩坐像、伝・運慶坐像、伝・湛慶坐像が並ぶ。地蔵菩薩坐像は衣のひだが自然でしかも美しいことに感心する。運慶は、わりとさいづち頭(後頭部が出っ張っている)だと思った。その隣りに伝・平清盛坐像。照明の加減か、柔和な表情に見えた。さらに隣りに夜叉神立像(平安時代)2躯。え?六波羅蜜寺に夜叉神が?と思って調べたら「本堂の右奥の薄暗い厨子の中」にいらっしゃる、というブログ記事を見つけたが、全く意識したことがなかった。2躯とも似たポーズで、半ズボンに上半身は裸、目を見開き、髪の毛を逆立て、口を大きく開けている。東寺の夜叉神でいうと、雄夜叉(阿形)に近い。

 さて、最後に展示室の中央に戻って、空也上人像である。何度も見ているお像だが、360度あらゆる角度から眺めたことはたぶんないと思う。ゆっくり周囲をまわってみると、やはり真後ろが印象的だった。短くたくしあげた衣の裾のくしゃくしゃした皺がリアルで、いかにも立ったり座ったりを繰り返した感じがする。右足と左足の草鞋の紐のかかりかたの微妙な差異は、まさに踏み出す動きを表現しているようだ。そして、粗末な聖(ひじり)の風体にもかかわらず、六字名号を吐き出す表情の高貴な美しさよ。

 空也上人については、あらためて調べて、出自等がよく分かっていないことを知った。六波羅蜜寺は空也上人を「醍醐天皇第二皇子」と紹介しているが、これは伝説である。没後まもなく書かれた伝記資料としては、源為憲による『空也誄』があるくらいで、本展には、この古写本(真福寺=大須観音宝生院本)が展示されていた。

 なお、常設展の本館11室(彫刻)でも、六波羅蜜寺所蔵の司録・司命・奪衣婆坐像、弘法大師坐像、吉祥天立像を展示している。物販コーナーでは「奉拝/空也/六波羅」と書かれたご朱印をいただける。ご朱印は鉦と空也さんの横顔をあしらった特別仕様。これは…この展覧会限りなのかな。

 また、古い記録を見ていたら、東博は2008年に特集陳列『六波羅蜜寺の仏像』を開催しており、同寺から、かなりの数の仏像が出陳されていたことを思い出した。空也上人像については「この像は六波羅蜜寺の象徴的な存在であるため、出品がかないませんでした」と説明されていたことを、私は転記しているが、当時の担当者の方が今回の特別展にも関わっていらしたら、感慨深いことだろう。

 六波羅蜜寺のサイトによれば、同寺の宝物館は5月21日まで休館、5月22日から新宝物館「令和館」にて拝観を再開するそうだ。新宝物館!楽しみである。


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