見もの・読みもの日記

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目指すふるさと/シネマ歌舞伎・風雲児たち

2022-08-17 23:02:39 | 見たもの(Webサイト・TV)

シネマ歌舞伎『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち(みたにかぶき つきあかりめざすふるさと ふううんじたち)』(東劇)

 みなもと太郎の歴史漫画『風雲児たち』をもとに、三谷幸喜が脚本・演出を担当し、2019年6月に歌舞伎座で上演された作品である。『風雲児たち』は、むかし、なぜか家に1冊だけあって、好きで繰り返し読んだ覚えがあるが、全巻通しでは読んでいない。今回の舞台も、『風雲児たち』のどのあたりが原作なのか、あまり調べずに見に来てしまった。半分くらい進んだところで、ははあ、これは大黒屋光太夫の物語なのか、と得心した。

 冒頭、徳川家康が、一本帆柱以外の船の建造を禁止したことが、みなもと太郎さんの絵で、紙芝居ふうに語られる。ヨーロッパの外航船は三本マストで安定を取りやすかったが、日本の船は嵐や高波に弱かったのだ。これは初めて知った。

 さて、天明2年12月(1783年1月)商船神昌丸に乗って伊勢を出帆した大黒屋光太夫ほか17人は、江戸に向かう途中で嵐に遇い、8ヵ月近く海上を漂流し、アリューシャン列島のアムチトカ島に流れ着く。厳しい気候と不慣れな生活に耐え切れず、命を落とす仲間たち。残った者たちは力を合わせ、カムチャツカ、オホーツク、ヤクーツク、イルクーツクと、次第にロシアの内地に進み、最後はサンクトペテルブルク(の郊外)で女帝エカテリーナ2世に謁見する。この間、涙あり笑いあり、恋もあり。着ぐるみのハスキー犬が勢ぞろいする犬橇の場面が好き。

 強い意志と行動力・判断力を持つ、バランスのとれたリーダー光太夫を松本幸四郎。異国嫌いでお調子者だが根は小心者の庄蔵を市川猿之助。喧嘩早いが仲間思いで、ロシア女性からも惚れられる色男の新蔵を片岡愛之助。ちょっと頭の足りない、のんびりやの小市を市川男女蔵。日本では特に取り柄のない若者だったが、ロシア漂着以来、語学とコミュニケーションの才能を発揮して変貌する磯吉を市川染五郎。最年長のじいさん九右衛門を演じたのは、今年『鎌倉殿の13人』の北条時政役で注目されている坂東彌十郎さんだった。私はほとんど歌舞伎を見ないので、昨年だったら、全く分からなかっただろうな。

 イルクーツクで光太夫らを歓待し、エカテリーナ2世への謁見を仲介してくれたのは、語学学者・博物学者のキリル・ラックスマン。のちに登場する息子のアダム・ラックスマンと二役で八嶋智人さんが演じている。歌舞伎役者でない出演者は彼だけだが、特に違和感はなかった。ロシア宮廷で光太夫を待ち受けるポチョムキンは松本白鸚で、さすがの貫禄。エカテリーナ2世は市川猿之助の二役だが、全然分からなかった。

 そしてエカテリーナ2世から帰国の許しを得るのだが、病により(凍傷または壊血病)片足を切断した庄蔵は、キリスト教に入信しており、帰国できないことが分かる。庄蔵を一人残すに忍びない新蔵も、同様に洗礼を受けていた。光太夫は、こうして生き別れ、死に分かれた仲間の魂とともに、約10年ぶりの日本を目指す。結局、帰国の途についたのは光太夫、磯吉、小市の3名だけで、小市は日本を目前にして船の上で絶命した(史実では根室上陸後に死亡)。

 もとになった事実が「小説より奇なり」で格別にドラマチックである上に、三谷脚本の味付けとひねりが加わり、とても面白かった。音楽(長唄、竹本)が洒落ていて、よかったことも付け加えておきたい。出演者では、やっぱり猿之助が好きだなあ。私は彼の発声が、歌舞伎らしくて好きなのだ。そしてこのひとは、テレビドラマではなく舞台で見るのがいいと思う。


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