見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

中国電脳演義/中華ドラマ『啓航:当風起時』

2021-11-04 19:53:34 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『啓航:当風起時』全36集(企鵝影視、2021)

 タイトルは簡体字で『启航』と書く。船や飛行機の「出航」の意味らしい。1991年、燕京大学計算機研究所の譚主任は、国内のあらゆる企業・行政部門にコンピュータを普及させるため、米国のコンピュータ企業・康朴(Conpo)社の輸入代理業を始めたいと考えていた。数人の学生が、譚主任に従って「下海」(ビジネスへの転身)を決意する。目端が利き、熱血漢で仲間思いの蕭闖(呉磊)。漢卡(高速の漢字処理カード)を設計するなど、高度な技術力の持ち主だが、商売よりも研究生活に未練を感じている斐慶華(侯明昊)など。

 はじめに、康朴コンピュータの販売実績でライバルの八通公司を退ける必要があった。蕭闖は上海で、斐慶華は広州で、契約を勝ち取り、翌年、研究所長の同意を得て「華研」公司が正式に設立されたが、その総経理(社長)に任ぜられたのは、譚主任のライバルの林主任だった。

 蕭闖は上海で銀行員をしている聡明な女性・謝航と出会い、惹かれ合う。謝航は両親の望む勤め先と恋人を去り、自力で外資系企業に再就職し、実力を認められていく。斐慶華は、譚主任の娘の譚媛と知り合い、何度もすれ違いながら自分の気持ちに気づく。米国に留学した譚媛とは遠距離恋愛を続ける。

 宝松公司の第二期契約を担当することになった蕭闖と斐慶華は、相手方から難題を持ちかけられる。斐慶華は、必要な付属品を二手(中古品)で賄うことを提案し、宝松側の予算内で契約を獲得するが、ライバル社の密告で業界紙にすっぱ抜かれてしまう。これは国家資産の過大な流出を防ぐためにとった措置で、華研は一切の利益を得ていないことを証明し、市場の信用を回復するが、康朴の米国本社から責任を追及され、蕭闖が華研を退職することになる。

 蕭闖は広州で影碟(LD)再生機の輸入販売で儲けようとするが、口の巧い詐欺師に騙されて大損。弟分になった張萍萍とともに佛山へ赴き、執念で詐欺師の銭東来を探し当てる。さらに普及前のVCDを発見し、VCD再生機を製造販売する領航公司を起こして大成功する。しかし、巨額の富を得たことで、ずっと蕭闖を助けてきた相棒・魯哥(魯海牛)との間に齟齬が生じ、魯海牛は全財産を持ち逃げしてしまう。蕭闖は、給料未払いの工場労働者たちから命を狙われ、張萍萍と逃げるも、乗った車が湖へ転落してしまう。

 一方、華研では、国産コンピュータの製造に着手したい譚主任と、康朴製品の販売だけを続けたい林主任が対立。康朴社の総代理店契約をめぐって林主任は失脚するが、その陰に譚主任の画策があったことに斐慶華は気づく。いよいよ華研は風神と名付けた自社製パソコンを発売。最大のライバルは傑弗森(Jeferson)社で、その販売戦略を担当していたのは謝航だった。しかし斐慶華は譚媛の助言もあって傑弗森社を出し抜き、国内パソコン市場で圧倒的な優位を占めることに成功した。

 そこに蕭闖の事故の知らせが飛び込む。謝航、斐慶華、そして急遽帰国した譚媛は広州に向かう。湖で発見されたのは張萍萍の遺体のみ。蕭闖の行方は杳として知れない。その後、テレビに出演した斐慶華は、カメラを通して蕭闖に連絡を呼びかける。そして、どこかの街角の電気屋のウィンドウで、その映像を眺める蕭闖の姿で「本季終」。中国ドラマのぶった切りには慣れているのだが、さすがにここで終わりかい!と毒づいてしまった。蕭闖を演じているのは『琅琊榜』の飛流が出世役の呉磊くんなのだが、これは第2季では、梅長蘇みたいに顔を変え名前も変えて戻ってくるしかないのではないか(笑)と思った。第2季あるのかな。あってほしい。

 原作は王強の『我們的時代(Our times)』という三部構成の小説で、百度百科(中国語)によれば、1990年代から2018年までのIT業界の「事業興衰」と「命運沈浮」を描くのだそうだ。斐慶華は「本土精英創業者」、謝航は「外資企業精英創業者」、蕭闖は「野蛮生長起業家」(笑)の典型だという。さらに譚主任は「改革開放後第一代創業者」、譚媛は「企業家第二代創業者」として造形されているというのを読んで、よく考えられているなと思った。ちゃんと女性に、しかもそれぞれ個性的な複数の女性に社会的役割が割り振られているのも好ましい(中国社会の反映でもあるのだろう)。華研の起業メンバーに、吃音者だが総務担当として着実に仕事をこなす満歓声(方文強)と、激化する競争から落伍する許洋(張暁謙)が配されているのも味わい深い。どちらも好きな俳優さんなのだ。

 なお、華研には、中国科学院の計算機研究所員たちが設立し、現在に至る聯想集団(レノボ)の歴史が投影されているようである。中国の90年代の変化のスピードは、日本の60-90年代が四倍濃縮で詰め込まれているような感じだ。猛勉強したという呉磊くんの広東語、それから実はアイドル出身でノリのいいED曲も歌っているのに、地味なおじさんファッションが似合う侯明昊くんも可愛くて、とても楽しかった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 久しぶりの大阪/文楽・芦屋... | トップ | 2021年11月関西旅行:正倉院... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

見たもの(Webサイト・TV)」カテゴリの最新記事