見もの・読みもの日記

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名品をゆっくり/コレクション展(太田記念美術館)

2020-07-26 21:11:28 | 行ったもの(美術館・見仏)

太田記念美術館 『コレクション展』(2020年7月1日~7月26日)

 新型コロナウイルス感染拡大防止のための臨時休館明け第1弾として、当初のスケジュールを変更して企画された展覧会。「病魔に打ち勝つために作られた作品」「見ていて心がほっとするような作品」を選りすぐり、臨時休館中にツイッターで話題となった「#おうちで浮世絵」の人気作品も展示する。

 連休中日の土曜の午前中に行ったのだが、お客さんは少なかった。同館は、この数年、話題になる展覧会が多くて、いつ行っても混んでいたので、意外に思った。1階の展示室には畳敷きの一角があるのだが、そこは照明が消されていて展示品なし。壁沿いの展示ケースの中も、いつもより展示件数を減らしているので、全体に閑散とした印象を受けた。しかし、「選りすぐり」は嘘ではなく、数々の興味深い作品を、落ち着いた環境で見ることができて満足した。

 「病魔に打ち勝つため」の作品のひとつ、国芳の『木菟に春駒』は疱瘡除けの赤絵。ミミズクは目が大きいので、疱瘡による失明を避ける願いを込めたのだそうだ。「赤みみずく」で検索したら、郷土玩具の写真がたくさん出てきた。森光親『厄病除鬼面蟹写真』に描かれた鬼面蟹は平家蟹(正確にはヘイケガニ科のカニ)のことで、西国ではこの甲羅を入口に下げて厄除けにしたが、東国では手に入りにくいので絵を貼ったのだという。展示の刷り物には、島村高則(貴則)という武将の霊が蟹になったという由来が述べられていた。また、珍しい動物を見ると厄除けになるという観念もあったようで、歌川芳豊『中天竺馬爾加国出生新渡舶来大象之図』には、この霊獣を見ると七難を即滅し七福を生じるとある。この夏、厄除けにパンダでも見てこようかしら。

 歌川芳虎『諸病諸薬の戦ひの図』は、病気と薬を擬人化したものだが、薬の名前「救命丸」「実母散」(今でもある)などに混じって「ウルユス」という片仮名が見える。「ウルユス」の旗を立てた武者のいでたちは唐人ふう。調べたら、名前は外国ふうだが日本製の薬だそうだ(はりきゅうWebミュージアム)。疫病除けといえば鍾馗像で、北斎、芳虎、鈴木其一らの作品が並んでいたが、小林清親の鍾馗が意外で面白かった。あまり神格化、キャラ化しておらず、人間くさい表情をしている。

 2階は「ほっとする作品」で、人間社会の風俗を鳥や動物に仮託したものが多く出ていた。芳幾のトリ、国芳のネコなど、思わず口元がゆるむが、作者不詳の『志んぱん猫の国かい』(新版猫の国会)が気に入ってしまった。赤いふかふかの椅子に座ったネコ議員たちの後ろ姿。速記をとっているネコもいる。畏れ多くもカーテンの奥の貴賓席にいらっしゃる礼服姿はネコ天皇陛下だろうか。

 『暁斎画談』の人間の手足のスケッチは、同館のツイッターで話題になったもの。「真」を写す場合と「画」の一部として使う場合の描き分けが示されていて、現代の絵描きさんにも共感を呼んだらしい。『北斎絵手本帖』は北斎84歳の彩色図巻。花や野菜を、下絵を描かず、色絵具でいきなり描いていくのだろうか。線と色が混然となった新鮮な美しさ。よいものを見せてもらった。

 ちなみに2階も、のぞき台の展示ケースは使用せず。通常よりかなり少ない展示件数(40点強)だというが、このくらいでもいい気がする。次回展は月岡芳年なので、混むだろうなあ。


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