見もの・読みもの日記

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歴史を掘り、人に会う/京博深掘りさんぽ(グレゴリ横山)

2024-01-26 21:27:56 | 読んだもの(書籍)

〇グレゴリ横山『京博深掘り散歩』(小学館文庫) 小学館 2023.11

 お正月に京博に行ったら、ミュージアムショップに本書が積まれていた。京博のウェブサイトに2021年4月から2023年3月まで「グレゴリ青山の深掘り!京博さんぽ」のタイトルで連載されていた漫画エッセイに加筆・改稿したものだという。京博のサイトにはさんざんお世話になっているのに、この連載の存在を全く知らなかったので驚いた。刊行は2023年11月12日とあるが、私が昨年最後に京博に行ったのは、ちょうどその頃で、タッチの差で陳列を見逃したのではないかと思う。ちなみに東京の書店では、全く見かけた記憶がない。地域差?

 ウェブサイト公開時の順番はよく分からないが、本書の内容は「敷地と建物」「京博で働く人々」「文化財を守る人々」の三部構成に整理されている。京博の敷地がもとは方広寺の敷地で、豊臣秀吉が建立した大仏があったことは知っていたが、文禄4年(1595)に大仏殿がほぼ完成した後、大地震で大仏が瓦解してしまい、信濃善光寺のご本尊(秘仏の?)を運ばせてきて大仏の台座に祀らせた、という話は知らなかった。秀吉の死後、地震に強い金銅仏を建立しようとしたが鋳造中に出火して大仏殿炎上、その後、再建されたが、寛文2年(1662)地震で破損、木造仏に造り替えるが寛政年間に落雷で全焼、天保年間に半身像と仮堂が再建されるが、昭和48年(1973)火災で焼失したという。いやほんと「めっちゃ呪われてますやん」と言いたくなるこの歴史を知っただけでも本書を読んだ甲斐があった。閉鎖されて久しい明治古都館では、床下の発掘調査が行われており、江戸時代に方広寺が全焼した後、瓦の捨て場になっていたと考えられているそうだ。おもしろい!早く成果を見せてほしい。

 「京博で働く人々」には、我々が接することの多い受付・看視スタッフだけでなく、電気・機械設備担当や情報システム担当、衛士(警備担当)や写真師、多言語翻訳担当のみなさんなども登場。けっこう容赦ない(?)似顔絵がたのしい。副館長の栗原裕司さんは栗に似せたキャラに描かれていて、たびたび登場する(ネットで顔写真を探したら、いまは科博にいらっしゃるのかな)。私の大好きな、京博PR大使のトラりんも取り上げられている。2015年にトラりんが登場してから来館者がぐっと若返り、20~30代の来館者が増えたのだそうだ。そんな目に見える効果があったとは!

 「文化財を守る人々」では、京博の文化財保存修理所に入っている民間工房の方々を紹介する。そうか全てを博物館の組織と人員でまかなっているわけではないのだな。松鶴堂とか岡墨光堂とか名前は知っているが、実際に働いている方々を知るのは初めてで興味深い。100年前、1000年前の作者と身体で対話するような職人芸の世界であると同時に、最先端の技術を活用した科学調査室とも連携を取っている。ここの降旗室長、理系女子でかわいい。振り返ると、全体に女性の多い職場だなと感じた。

 京博には、作品を収めるまでの事務書類や文書をまとめた「列品録」という書類がある(東博にもあるのかな?)。これを作るように指示したのは帝室博物館長だった森鴎外らしいという。おお、さすが! この列品録の調査から生まれた展覧会が、2008年の『憧れのヨーロッパ陶磁』展だという。ああ、覚えている~。京博にドイツの工芸品を寄贈してくれたホッホベルク伯爵の名前にまた出会うとは思わなかった。京博の館蔵品台帳は、デジタルでも記録しているが「デジタルは何かの事故で消える危険もあるので」冊子でも保管しているという話には感銘を受けた。

 あと平成知新館のグランドロビーにキツネの正面顔のような文様が浮き出てきたという話、その北側には豊国神社の境内の槙本稲荷神社という小さなお社があり、まっすぐ南に行くと伏見稲荷があるという。作者のグレゴリ青山さんが妙にワクワクしながら描いているけど、私もワクワクした。

 京博周辺の案内地図がついているのもうれしい。河井寛次郎記念館はむかし一度行ったけれど、藤平伸記念館は知らなかったなあ(春秋のみ公開)。大仏餅の甘春堂も訪ねてみようかしら。

・京博ミュージアムショップに飾られていた色紙。

・正月のトラりん。頭に龍を載せている。


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