見もの・読みもの日記

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北斎サムライ画伝(すみだ北斎美)+鳥文斎栄之展(千葉市美)

2024-02-16 23:30:53 | 行ったもの(美術館・見仏)

すみだ北斎美術館 特別展『北斎サムライ画伝』(2023年12月14日〜 2024年2月25日)

 北斎(1760-1849)や門人たちがサムライを描いた作品を集めた展覧会。私は浮世絵に対して、そんなに関心が高いわけではないのだが、描かれたサムライという着眼点に、歴史・伝奇好きの性癖をくすぐられて見に行った。はじめは、北斎が実際に見ていた「江戸のサムライ」の姿。同時代の世態風俗を描いた浮世絵には、刀を差していることでそれと分かるサムライたちが描き込まれている。ぶらぶら物見遊山をしたり、酔っ払ったり、旅をしたり、登城するサムライたち。まあ今のビジネスマンか公務員程度には、ふつうに身の回りにいたわけである。

 一方、理想化された「名うてのサムライ」も描かれた。時代順に、坂上田村麻呂、俵藤太秀郷に始まり、頼光、義家、為朝、悪源太義平など、私の好きな武将が並ぶ。北斎の『絵本武蔵鐙』の「八幡太郎源の義家」は本展のメインビジュアルにもなったもの。カッコいいのだが、大鎧の裾の「草摺」が(中世の絵巻ものに描かれた姿に比べて)長すぎるんじゃないか?と思ったら、「草摺」のさらに下に「佩楯(佩立)」という防具をつけるらしい。ちょっと中国の甲冑みたいだと思った。

 平家はやっぱり清盛と知盛か。蹄斎北馬の『平家物語図会』「相国入道西光法師が頭を足下に踏蹂図」は、西光の丸い禿げ頭に清盛がピタリと足を載せていて笑ってしまった。葛飾北為『摂州大物浦平家怨霊顕る図』は、動物の骨のような白い筋を見せる大波と夜空をランダムに横切る稲光がダイナミックな大判三枚続きの錦絵。初見だろうか。私は歌川派ばかり見ていて、葛飾派をよく知らなかったことに気づいた。

 それから北条義時、泰時、戦国時代の武将たちへと続く。また「戦いの場面」では源平の一の谷、屋島、信玄と謙信、忠臣蔵などを取り上げ、「サムライの得物」は刀剣とのコラボ展示になっていた。

千葉市美術館 企画展『サムライ、浮世絵師になる! 鳥文斎栄之展』(2024年1月6日~3月3日)

 久しぶりに行ったら、入口が変わっていて、ちょっと戸惑った。本展は、ボストン美術館、大英博物館からの里帰り品を含め、錦絵および肉筆画の名品を国内外から集め、鳥文斎栄之(1756−1829)の画業を総覧しその魅力を紹介する、世界初開催の栄之展である。といわれても何がすごいのか、あまりよく分かっていなかった。鳥文斎栄之の名前は聞いたことがある。作品を見ると、スラリとした長身で(10等身くらいある)、面長に小さい目鼻の美人画にも見覚えがあった。

 それほど好きだと思ったことはなかったのだが、まとめて見ていると、だんだん気に入ってきた。描かれた女性たちは、良家の婦人も遊女も町娘も、みんな品があって、きれいなのである。あと、男性の姿が少なく、女性ばかりが集って楽しそうなのもよい。しばしば描かれた隅田川の船遊びも隅から隅まで女性ばかり。栄之の描く女性は、立っていても座っていても背筋が伸びていて姿勢がよいのだが、ちょっと座り方を崩した際の、膝の丸みが色っぽいと思った。

 栄之が旗本出身で、第10代将軍・家治の御小納戸役として「絵具方」という役目を務めたとか、御用絵師・狩野栄川院典信に絵を学んだことなどは初めて知った。家治の死去、田沼意次の老中辞職という時代の変わり目の頃から、本格的に浮世絵師として活躍するようになり、やがて武士の身分を離れたという。

 上流階級や知識人などから愛され、重要な浮世絵師の一人であったが、明治時代に多くの作品が海外に流出したため、今日、国内で栄之の全貌を知ることは難しくなっているのだそうだ。今回、貴重な機会をつくってもらって感謝している。新しい「推し」を発見したかもしれない。

■千葉市美術館 企画展『武士と絵画-宮本武蔵から渡辺崋山、浦上玉堂まで-』(2024年1月6日~3月3日)他

 『鳥文斎栄之展』に続く併設展は、江戸時代の武士と絵画の関係をテーマに、千葉市美術館収蔵作品で構成した小特集。サムライで絵師といえば、まあ宮本武蔵だし、海北友松だよな、と冒頭の作品を眺めながら、ここに家光の作品はないのな?と思って後ろを振り向いたら、伝・ 徳川家光『墨絵 子供遊図』があって、図られたようで苦笑してしまった。「え?家光?」「将軍の?」みたいな会話が聞こえたのも嬉しかった。渡辺崋山『佐藤一斎像画稿』は大迫力。ほかに、浦上玉堂、田能村竹田、酒井抱一、楊洲周延など。

 常設展は『千葉市美術館コレクション選』(2024年2月6日〜3月3日)で「特集 生誕140年 石井林響とその周辺」など。戸張孤雁(とばり こがん)という画家/彫刻家が気になったが、昨年秋に新宿中村屋サロン美術館で回顧展をやっていたのか。見逃してしまった。


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