見もの・読みもの日記

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中国アニメ映画初視聴/映画・羅小黒戦記

2021-03-07 23:13:05 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇MTJJ監督・脚本『羅小黒戦記(ロシャオヘイせんき):ぼくが選ぶ未来』(2019年)

 評判を聞いて気になっていた中国のアニメ映画を見てきた。主人公の小黒(シャオヘイ)は黒猫の妖精で、人間の子どもの姿になることもできる。深い森の中で平和に暮らしていたが、人間に森林を奪われ、街に出てノラ猫に交じって食べものを漁らなくてはならなくなった。

 ある時、人間に襲われかけた小黒は、同族の妖精である風息(フーシー)に助けられ、小さな無人島に連れていかれ、風息の仲間の妖精たちに暖かく迎えられる。居場所と仲間が見つかったことを喜ぶ小黒。しかし、風息たちの対抗勢力「館(やかた)」の執行人で、人間でありながら妖精以上の戦闘能力を持つ無限(ムゲン)が現れ、風息たちは島を逃げ出す。無限は、取り残された小黒を縛り上げ、館に連れていくことにする。二人は小さな筏で海へ乗り出す。

 船旅の間に、二人の関係に少しずつ変化が生じ始める。やがて筏は福蘭省(福建あたりのイメージ?)に到着。無限は、知り合いの妖精たちにお金を借りて、スクーターを買い、ハンバーガーショップに寄ったり、安宿に泊まったりしながら、龍游と呼ばれる都会を目指す。しかし、そこにはすでに風息と仲間たちが待ち構えており、無限から小黒を拉致する。小黒は、なつかしい風息たちに会えて喜んだのもつかの間、風息が人間を皆殺しにして妖精の楽園を取り戻そうとしており、そのために小黒の潜在能力を求めていたことを知る。風息に手を貸すことを拒絶する小黒。風息は怒りを爆発させ、小黒の潜在能力(領界)を強奪する。

 突如、龍游の都市の大半を、正体不明の黒い球体が覆いつくす。風息が小黒から奪った領界で、この中では風息は無敵のはずだった。無限は、息を吹き返した小黒とともに風息に戦いを挑み、ついに勝利する。樹木の性の妖精である風息は、巨木に姿を変えて消えた。平和の戻った龍游で、小黒は妖精の館で暮らすことを勧められるが、小黒は師匠の無限に着いていくことを選択する。そしてまた二人の旅が始まる。

 いや~面白かった! 私はむかしの日本のアニメ映画しか知らないので、時代錯誤な感想かもしれないが、自然な色彩、滑らかな動き、場面転換の軽快なテンポなど、文句のつけようがない極上のアニメーションだった。黒猫モードのシャオヘイは、マンガっぽくデフォルメした顔つきなのだが、猫らしい体の柔らかさが丁寧に表現されていた。後半の風息と無限の戦いは、都市の現実感がちゃんと出ていて、SF映画大作のようだった。言葉数の少ないムゲンのクールなかっこよさと、シャオヘイの弾けるような子供らしさ。美味しいものや楽しいこと、そして人の温かさには素直に反応し、嫌なことは全力で拒否するシャオヘイが可愛くて、ずっと目を離せない。笑えるシーンもたくさんある。食べものがすべてリアルで美味しそうなのもポイントが高い。敢えて難点をいえば、元来ウェブ上で28話まで公開されている本編があって、その前日譚として作られているため、この作品内で活かし切れていないキャラクターがいることだろうか。

 物語の大きなテーマは、異なる者の共存である。妖精には、長年暮らしてきた自然の洞窟を人間に奪われて、嘆いている者もいる。宅地造成で破壊されるだけでなく、入場料の要る観光資源になってしまったというのが現代的でリアル。一方で、さまざまな人間の発明(スマホとか)を面白がっている妖精もいる。結局、人間にも妖精にも、いい奴もいれば悪い奴もいるので、人間と妖精は共存していくしかないんじゃないか、と館の妖精たちは思っている。実は龍游には、たくさんの妖精が人間に交じって暮らしており、地下鉄に乗ったり、花屋でバイトをしていたりする(多くの人間は気づいていないのかもしれないが)。このゆるい共存関係は理想的に思える。

 私は中国語音声を聴きたかったので字幕版を見てきた。「館(やかた)」と字幕が出ていたのは、原語では妖霊会館という。かつて中国の主要都市に商人たちが業種ごとや出身地ごとに建てた「会館」(さまざまな機能を備えた互助組織)のイメージなのかな、と思った。あと、最後にシャオヘイがムゲンを呼ぶときの字幕は「師匠」なのだが、原音は中国ドラマで聞き慣れた「師父(しーふ)」呼びで、これはどちらも好き。


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