見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

僕らのヒーロー/江戸の怪し(太田記念美術館)

2007-08-22 00:41:11 | 行ったもの(美術館・見仏)
○太田記念美術館『AYAKASHI 江戸の怪し-浮世絵の妖怪・幽霊・妖術師たち-』

http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/

 浮世絵で知られる太田記念美術館は、実は初めて訪ねた。ふだん「浮世」の様態にはあまり興味がないのである。しかし、今回は、妖怪、幽霊、鬼、妖術使など、この世ならぬ「怪(あやか)し」の世界を描いた浮世絵(矛盾だなあ)の特集なので、行ってみた。

 はじめは、一つ目小僧、ろくろ首など「定番」の妖怪図を微笑ましく見ていたが、次第に引き込まれてしまったのは、月岡芳年の作品。やっぱり凄いわ、この人。妖怪画集『月の百姿』のうち「大物浦海上月 弁慶」では、画面の半分ほどを黒い波濤が占め、船の舳先に立ち尽くす弁慶の姿を小さく”引き”で描く。とても浮世絵とは思えない構図である。「源氏夕顔巻」は、はかなげな夕顔の横顔が少女マンガのようだ。

 私のイチ押しは「羅城門渡辺綱鬼腕斬之図」。墨を叩き付けたような黒い暴風雨。驚き恐れて立ち上がりかける馬(巻毛の立髪がチャーミング)。上空を振り仰ぐ綱。黄色い雷光に照らし出される、朱塗りの柱にしがみついた鬼。そのまま、怪奇SF映画のポスターになりそうな構図。鬼の躍動感がすばらしい(→日文研の「近世風俗図絵データベース」に画像あり。ただし、色は現物のほうがずっとよかった)。

 三代豊国の「奇術競 蒙雲国師」もいいねえ~。ストップモーションで飛び散る岩石、黄色と黒の旭日旗みたいな背景が横尾忠則ふうである。(→これは早稲田の演劇博物館のデータベースで画像発見。最近は、何でもネット上にあるものだな)。よく見ると画面に「七十九年(?)豊国筆」とある。まさか?と思ったが、文久3年(1863)のこの作品、三代目豊国(歌川国貞、1786-1865)79歳の作のようだ。ぶっ飛んだ爺さんである。

 英雄に怪異譚は付きもの。というか、異界との付き合いあって、初めて英雄と認められるのが日本のヒーローのようだ。楊州周延の『東錦昼夜鏡』に「小刑部(おさかべ)姫」という作品がある。姫路城の天守閣に住む女性の妖怪。おお、泉鏡花の「天守物語」の元ネタではないか、と思ったけど、姫に対面しているのは、図書之助ではなくて、剣豪・宮本武蔵なのね。

 再び芳年に戻って『豪傑記述競』は、動物を操る妖術使いが一堂に会したところ。展示品は、摺りの状態がよくて、大蛇の赤い腹、逆立てた化け猫の毛並みなど、息を呑むほどに美しかった。木曽義高が須美津冠者と称して、大ネズミを使うなんて知らなかった。江戸人の想像力は面白い。

 また、広重の「童戯武者尽」などの楽しい作品も。弁慶の古道具屋くらいは誰でも思いつきそうだが、スサノオとクシナダヒメが夫婦で蒲焼屋(ヤマタノオロチを焼いてしまった?)を営んでいるのには笑った。いつの時代もヒーローは、憧れられつつ、笑われるのであろう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 知らないことばかり/グアム... | トップ | 皇帝のうつわ・今昔/景徳鎮... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

行ったもの(美術館・見仏)」カテゴリの最新記事