見もの・読みもの日記

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万博のコレクターたち/太陽の塔からみんぱくへ(国立民族学博物館)

2018-03-15 23:37:27 | 行ったもの(美術館・見仏)
国立民族学博物館 開館40周年記念特別展『太陽の塔からみんぱくへ-70年万博収集資料』(2018年3月8日~5月29日)

 国立民族学博物館は、1974年に創設され、1977年11月に開館した施設であるが、開館に先立ち、1970年の大阪万博のために「日本万国博覧会世界民族資料調査収集団」(EEM:Expo'70 Ethnological Mission)が1968年から1969年にかけて収集した世界の民族資料約2,500点を所蔵している。本展は、EEMが収集した民族資料約250点と、関連する書簡や写真を展示し、収集活動の様子と当時の世界を描き出すものである。

 はじめにEEMが活動した1960年代が、どんな時代だったかを振り返る。米ソ両国の軍拡競争、ベトナム戦争と反対運動、先進国の急速な経済成長、公害と環境問題など、昨年の国立歴史民俗博物館の企画展示『「1968年」無数の問いの噴出の時代』と重なる部分もありつつ、無数の問いの行きついた先は「経済性が最優先される社会」だったことを確認する。その中で、東大文化人類学研究室の大学院自治会の手紙に目が留まった。「現在の社会にい来る以上は「きれいな金」などはあありえないでしょう。問題なのは、むしろ研究成果の政治による利用のされ方なのです」と訴え、万博協力に懸念を表明する。女性のようなきれいな筆跡だった。

 展示は、日本、韓国・台湾、東南アジア、インド・中近東、西アフリカ、東アフリカ、ヨーロッパ、中南米、北米、オセアニアの順で、迷路のように展開する。展示資料自体は、同館の常設展示に比べて特に目新しいものではなかったが、研究者の名前や収集活動のエピソードを知ることで、新鮮な印象を持った。

 日本は、農業史上空前の大変化が進行する中で、多くの伝統的な農器具や稲作信仰にかかわる資料が収集されている。収集者の中に坪井洋文の名前があった。韓国は伝統的な仮面劇の仮面が多数。地域ごとに特色がある。台湾は道教の神像や操り人形が展示されていた。布袋戯に関連して「霹靂(ピリ)」の説明もあり。

 東南アジアは京都新聞の記者であった高橋徹が担当した。高橋が日本の事務局や家族に宛てた手紙が非常に面白いということで、会場にはその一部がパネルで紹介されていた。クアラルンプールの寺院で「EXPOで使うのなら、本尊以外何でも分けてやる」と言われたとか、プノンペンで住民のむかしながらの民具を収集するのは「祇園の舞子のキモノ、ハキモノを集めるようなもの」と反省したり、確かに興味深い。アフリカでは片寄俊秀が、ブワナ・トシ(とし旦那)と呼ばれて住民たちの歌にまでなってしまった。タンザニアのマコンデ彫刻は衝撃だった。黒っぽい木を用いた大胆な造形で、彩色は施さない。水木しげるか諸星大二郎の作品に出てきそうな、摩訶不思議な彫刻が並んでいた。

 北米のセクションには、先住民ホピのカチーナ神像があった。壁に「ホピ以外の人々によるカチーナ人形の真似、類似品制作、販売は文化や信教の冒涜とみなされます」という注意書きが掲げられていて、日本のお寺さんの商売気はどうなんだろう、とちょっと思った。またオセアニアの現・バヌアツ共和国で収集された祖先像は「太陽の塔」に少し似ており、岡本太郎氏は「太平洋ではむかしから岡本太郎の真似をしていたんだな」と語ったそうである。

 2階の会場では、「仮面」「彫像」などの形態別に各国各地域の資料をまとめて展示しており、楽しい。日本の仮面も、アジアやアフリカの仮面の中にあって、意外なくらい違和感がない。最後に大きな写真バナーがあって、1970年の大阪万博において「太陽の塔」の地下展示場に、EEMが収集した民族資料が展示されていたことを知った。私は小学生で、「太陽の塔」に入館しているはずなのだが、長いエスカレーターを昇っていく(下りていく?)地上部の「生命の進化の歴史」はかすかに覚えているのに、地下の展示は全く覚えていない。興味がなかったのかなあ。

 本館の常設展示も併せて見た。近年、どこかの部屋が必ず「リニューアルのため閉室」だったような気がするが、今回は全てオープンしていた。常設展エリア内で、開館40周年記念企画展・アイヌ工芸品展『現れよ。森羅の生命-木彫家 藤戸竹喜の世界』(2018年1月11日~3月13日)も見た。これが見たくて、この週末に関西行きを実行したのである。「熊彫り」を生業としていた父親に学び、観光地の土産物店で職人として働き、今や北海道を代表する彫刻家となった。白木の中から生み出される、恐ろしかったり愛らしかったりする熊の表情が魅力的。

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