見もの・読みもの日記

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文化人将軍の役割/天下泰平(江戸東京博物館)

2020-02-18 22:36:35 | 行ったもの(美術館・見仏)

江戸東京博物館 企画展『天下泰平~将軍と新しい文化の創造~』(2020年1月2日~2月16日)

 常設展示エリアで開催されていた本展は、德川宗家に伝来する歴代将軍の書画、幕府御用絵師狩野派が描いた絵画作品などを通して、江戸文化における将軍の果たした役割を考える企画。徳川記念財団の所蔵品が多数出ていた。

 企画趣旨に言う通り、多くの日本人は、徳川将軍と聞くと、天下泰平の世をもたらした文化人政治家を思い浮かべるだろう。ただし、それは三代家光以降で、さすがに初代家康には戦国武将のイメージが強いのではないか。ところが本展の冒頭には家康の一行書『花鳥風月』。筆の運びがゆっくりで、なよなよと柔らかなタッチ。家康は幼少期から書道が好きで、晩年には藤原定家の筆跡に傾倒して、熱心に臨模したそうだ。唐太宗の王羲之愛みたいだ。墨画『大黒天図』も晩年の作だろうか。巧まざるユーモアに頬がゆるむ。しかし素人の画技にしては巧い。ちょっと白隠を思わせる。

 家光は、出た!ピヨピヨ鳳凰! 私はこの子に会いに来たのである。隣りに伝・家光筆『架鷹図屏風』六曲一双が並んでいたが、こちらは巧すぎる。小浜藩主・酒井忠勝が敦賀の鷹絵師。二代橋本長兵衛に描かせたものに家光が筆を加えたという説明を読んで納得した。鷹のポーズや羽色、構図(止まり木を正面でなく斜めから描くなど)のバラエティがとても面白い。

 家光が夢に見た家康を狩野探幽に描かせた『東照大権現霊夢像』は、白い平服、黒い頭巾で膝を崩した座り方が人麻呂影供像を思わせる。紅葉山の稲荷社に掛けられていたという『紅葉山鎮座稲荷額』は、中央のキツネに乗った荼枳尼天に探幽の署名、左右の眷属のキツネに安信と常信の署名があるもの。

 五代綱吉は儒学を重んじ、自ら家臣に四書五経を講じた。コンパクトな『明版四書(綱吉御手持本)』と使いこまれた書袋は、別の展覧会でも見た記憶があった。生類憐みの令で知られる綱吉が、鳥や動物の絵を好んで描いていたことは初めて知った。『芦雁図』『練鵲図』かわいい。前期の『鶏図』を見逃したのは残念である。『桜花馬図』は、歴史も故実も関係なく、ただ桜と馬をいつくしむ気持ちが滲み出ていて好き。綱吉が新井白石に賜った『落雁仙鶴之図』対幅は、金雲の使い方が大胆で、現代絵画みたいな面白さがある。

 八代吉宗は広く学問を奨励した。中でも西洋天文学の推進は重要。前期展示の『五星臨時調測量御用手伝之者之儀ニ付達書』が見たかったな。十一代家斉は松平定信を老中首座に抜擢し、定信を中心に『集古十種』が編纂された。しかし定信の書跡がたくさん出ていたが、力強くクセの強いもので、人柄を彷彿とさせた。こういう字を書く人とは、あまり関わりたくない。

 最後に徳川宗家十六代当主の徳川家達(1863-1940)。貴族院議長をつとめ、いくつもの社会団体の長を歴任した。なんと1940年の東京オリンピック招致委員会会長、IOC委員、組織委員会会長もつとめており、当時の写真も展示されていた。

2/19補記。特別展『江戸ものづくり列伝-ニッポンの美は職人の技と心に宿る-』(2020年2月8日〜4月5日)も見た。「ものづくり」と聞いて、テクノロジー方面を予想していたのだが、やきもの、金工など工芸品が中心。明治前期に日本を訪れたヨーロッパ貴族バルディ伯爵の日本コレクション(ベニス東洋美術館所蔵)は、まあ面白かった。


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