見もの・読みもの日記

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古代人の快適生活/ポンペイ展(横浜美術館)

2010-05-09 16:33:27 | 行ったもの(美術館・見仏)
横浜美術館 『ポンペイ展:世界遺産 古代ローマ文明の奇跡』(2010年3月20日~6月13日)

 ゴールデンウィーク最後の日曜日。連休中は、ずっと日本美術を追いかけていたので、最後に気分を変えて、西欧文明の源流に接してみることにした。

 イタリア南部のヴェスヴィオ山が噴火したのは西暦79年のこと。およそ1万2千人が暮らしていたというポンペイの町は、一昼夜にして火山灰の下に埋没した。思えば、阪神淡路大震災以上の大惨事だったわけだが、私が「ポンペイ」と聞いて、最初に思い浮ぶのは、「永遠の春」のような、優雅で洗練された壁画やタイル画の数々である。

 その先入観を裏切って、会場の冒頭でどきりとさせられるのは『噴火犠牲者の型取り』。2002年に発見された人骨を掘り出した跡に樹脂を流し込んで型取りしたものだという。うつぶせにされた背中、折り曲げた脚などが、犠牲者の苦痛を感じさせて、ちょっと粛然とする。しかし、それも暫時のこと。芸術性の高い彫刻やフレスコ画を見ていると、古代都市の華やかな日常生活の情景が広がり、悲劇のことは、あっという間に忘れてしまう。

 私は、ポンペイといえば優美=軟弱貴族のイメージしかなかったので、剣闘士の兜や脛当のゴツい美しさには目を見張った。年の初めに吉祥を願って剣闘士の小像をやりとりしたというのも面白い風習である。こういう尚武の気風は、儒教文化圏にはないねえ。

 また、邸宅にはララリウムという祭壇があって、本来は家の守り神ラルを祀るものだったが、他にもユピテル、ミネルヴァなど、さまざまな神の小像(10~20センチくらい)が飾られた。日本みたいな多神教風土だったんだなあ、と思う。

 何にもまして驚いたのは、高温浴室のセット。大理石の浴槽はともかく、青銅器製の筒状の風呂釜から、蛇口のついた給水管が何本も伸びている。すごい! 昭和の風呂釜と変わらないんじゃないか…いや、床暖房機能も加味されていたりして、もっと高度かもしれない。ほかにも、燭台が伸縮式だったり、盤を乗せる三脚が折りたたみ式だったり、単なる優美な貴族趣味ではなくて、「生活の快適」を求める工夫がそこここに感じられ、実学重視のローマ文明をちょっと見直した。もっとも、ヤマネ(食用)の飼育壺には笑った。食べるんかい!

 なお、本展は、ナポリ国立考古学博物館の協力に加えて、「京都の古代学研究所(当時)によるポンペイ発掘調査」の成果(上述の犠牲者型取りなど)が併せて紹介されている。「古代学研究所」というのは、(財)古代学協会が運営(設置)していたものらしい。同協会のホームページに簡単な紹介(研究活動)があるが、「昨今の厳しい社会情勢の荒波」にもまれて苦悩している様子も見受けられる。本展の収入が、研究継続の足しになるといいのだけど…。

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