見もの・読みもの日記

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善美を極める/彩られた紙(大倉集古館)

2021-06-11 22:14:25 | 行ったもの(美術館・見仏)

大倉集古館 企画展『彩られた紙-料紙装飾の世界-』(2021年4月6日~6月6日)

 文字や絵をより美しくみせるために料紙(用紙)を加工した「彩られた紙」を取り上げ、そこに託された祈りや夢、そして美の移り変わりを探る。昨年度、コロナ禍で開催中止になった展覧会の再企画で、今年も緊急事態宣言で中断を余儀なくされたが、6/1から1週間だけ再開し、なんとか最終日に滑り込みで見ることができた。

 入ってすぐ、びっくりしたのは応挙の巨大な『関羽図』。縦350cmもあるので、下のほうを床で折り曲げるように展示されていた。近江出身の書家・巌谷一六旧蔵で、応挙が巌谷家に居候していたとき、男児の初節句のために描いた幟旗(のぼりばた)だという。

 本展最大の見どころは、田中親美が制作した平家納経模本だろう。1階と2階に計9巻展示されていた。観普賢経の見返しには、剣と水瓶を持った女房装束の女性がひとり描かれている。普賢菩薩の眷属、十羅刹女の黒歯(こくし)であるとのこと。妙法蓮華経序品第一には、吹抜屋台方式で、屋内の男女(別の部屋にいる)と庭の泉水が描かれている。分別功徳品第十七には、蓮池のほとりの尼と女性二人、男性一人。やっぱり人物が描かれていると、さまざまな物語が想像できて楽しい。もちろん料紙そのものの美しさ、赤と白とピンクなどの配色に加え、金銀の箔や砂子の散らし方にも工夫がある。提婆達多品第十二は、表紙の怪魚たちが可愛かった。表紙を見せると見返しが見えないなど、見どころが多すぎて、展示に苦労が感じられた。その田中親美の『金銀箔散屏風』は、縹緲とした雲海の景色を描いたもので、題名よりもずっと簡素な趣きだった。

 もうひとつの見どころは、色や摺りの異なるさまざまな唐紙を継いだ国宝『古今和歌集序』(平安時代)だろう。全33紙の後半(18~33紙)が展示されていた。解説を読むと、雲母摺り・黄雲母摺り・蝋箋(ろうせん)という技法が使われている。蝋箋は、料紙の下に版木を置いて強くこすり、文様を写し出すもの。人物群など複雑な文様を写し出すことができ、表面がつるつるピカピカ光っている。2012年に見たときは、藤原定実の筆跡にも注目しているが、今回、料紙ばかり気になって、ぜんぜん書跡に目がいかなかった。

 『古経貼交屏風』(特種東海製紙所蔵)や『東大寺文書貼交屏風』は、むかしから好きだった同館の所蔵品で、久しぶりに見ることができてうれしかった。高山寺旧蔵の『悉曇要集記・悉曇集記加文』(特種東海製紙所蔵)は見たことがあるだろうか? 帖首や末に、丸を二つ縦につないだような「紙屋の印」がある。平安後期の聖経にまれに見え、宮廷の紙屋院とのかかわりが注目されるそうだ。

 本展、ほぼ全ての作品に、料紙をマイクロスコープで覗いた拡大画像が添えられているのも面白かった。『古経貼交屏風』の中聖武はマユミ100%で多量の胡粉を含んでいるとか、隋経切は、繊維の隙間を埋めるため、石膏・石灰など鉱物性の白色粉末が使われ、墨のにじみどめに澱粉が混入しているなど、成分分析の解説をとても興味深く読んだ。


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