見もの・読みもの日記

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「洋風画」好き必見/はじめまして、かけじくです(板橋区立美術館)

2021-06-17 18:08:26 | 行ったもの(美術館・見仏)

板橋区立美術館 館蔵品展『はじめまして、かけじくです』(2021年6月5日~7月4日)

 いつも新鮮な企画で楽しませてくれる板美(イタビ)。本展は、縦長・横長といった画面の形による表現の違いや、対(セット)で鑑賞する面白さ、作品とともに現代まで伝わる箱や文書など、さまざまな角度から「掛軸」を紹介する。目のつけどころも展覧会のタイトルも楽しくて、遠路にめげず、いそいそと行ってきた。

 展示作品は約50件。館蔵品展だから、だいたい見たことのあるものが主だろうと思っていたら、えっと驚く作品がいくつか混じっていた。実は「歸空庵コレクション」から13件が出品されている。秋田蘭画や初期洋風画で有名な歸空庵(帰空庵)コレクションは板美に寄託されているので、館蔵品展に出ていてもおかしくはないのだが、特別な機会でないと見られないように思っていたので、ちょっと意外だった。

 伝・佐竹曙山筆『蝦蟇仙人図』(↓画像)、小田野直武筆『鷺図』など、この分野に関心のある者なら必ず知っている有名作品が多数。

 司馬江漢の『深川洲崎富士遠望図』は横長の画面、青い海を背景に黒っぽい犬が一匹、無人の浜辺に佇んでいる。水平線上に低く富士の姿が見える。同館が千葉市美術館とコラボした『夢のちたばし美術館!?』展で見て、印象に残った作品だ。司馬江漢は『鉄砲洲富士遠望図』でも海辺のわんこを描いている。海岸線に無造作に積まれた石材(石灯籠もある)の影に、焦茶色のはちわれの犬が二匹、うずくまっている。港には大きな白い帆の帆船。

 作者不詳の『蘭人少年像』は初見ではないかと思う。これだけインパクトの強い作品なので、見たことがあれば覚えているだろう。

 このほかにも、祇園井特のデロリ系美女『納涼美人図』、狩野典信(栄川院)の巨大な『大黒図』など、クセの強い作品が目立つ。河鍋暁斎『骸骨図』双福は、ほぼ等身大で男女の骸骨を描き分けており、それぞれ精子と卵子が書き添えられている。もちろん、江戸絵画らしい華やかな花鳥図や、英一蝶の『投扇図』(鳥居に向かって扇を投げる男たち)など、楽しい風俗図もある。

 そして「はじめまして、かけじくです」と言われていることもあって、いつもより表装が気になる。やっぱり茶系と青系の表具が多いのは、作品鑑賞の邪魔にならないのかなと思う。ときどき、思い切って主張の強い表具があるのも面白い。伝・佐竹曙山『紅梅水仙図』の太い縦縞とか、狩野章信『内裏雛図』の花いっぱいの描き表装とか。参考展示で、戦後、海外へのお土産用につくられた水彩(※訂正→油彩)の肖像画が、掛け軸のかたちをしているのも面白かった。

 展示のナビゲーターをしてくれるのは、市兵衛さんとねこちゃん。初登場は2020年のリニューアルオープン展だったかしら。

 市兵衛さんは、酒井抱一の『大文字屋市兵衛像』から。

 ねこちゃんは、柴田是真の『猫鼠を覗う図』から。

 とても楽しかった。そしてこの充実したコレクション展が【無料】という幸せ。4月からパートタイム雇用になって収入が減り、展覧会めぐりもコストを意識するようになったので、公共サービスの価値が身に沁みる。ありがとう、板橋区。

 備忘メモ。これまで何十年も板美に通っていて、近くに食事のできるところがない(コンビニはあり)のが最大の難点だったが、赤塚溜池公園の前に「いちカフェ」というお店を見つけた。ランチの看板が出ている(ガッツポーズ)! 調べたら2020年10月3日オープンとのこと(※いたばしTimes)。次回は忘れずに寄ってみたい。ぜひ末永く営業を続けてください。

掛け軸 表装シミュレーター(京都表具協同組合):ずっと紹介したいと思っていた無料アプリ。書画作品を選んで好みの裂(きれ)を合わせ、自分だけの掛け軸をデザインしてみるもの。板美の所蔵作品も選べる。

※帰空庵氏については、名前を聞くたびにどういう方なんだろう…と想像するのだが、静嘉堂文庫美術館の饒舌館長こと河野元昭氏のブログ(2017/10/5)に言及があるのを発見したので、ここにメモしておく。


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