見もの・読みもの日記

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元禄の金襴手、化政の染付/町人文化と伊万里焼展(戸栗美術館)

2010-02-05 00:06:13 | 行ったもの(美術館・見仏)
戸栗美術館 『町人文化と伊万里焼展-器からみる江戸の食-』(2010年1月5日~3月28日)

 江戸時代の町人たちの食文化を支えた伊万里焼を紹介。文化の大きな盛り上がりは2度あった。はじめが、貨幣経済が浸透して“豪商”と呼ばれる人々が台頭してきた元禄年間(17世紀末~18世紀初)。絢爛豪華な金襴手様式が、その食卓を彩った。ただし、金襴手のバリエーションには、金彩が少ないものや絵具の色数を減らしたもの、白い素地の部分が広いものもある。これらは、比較的安価で、町人たちが、経済力や使用目的に合わせて選ぶことができた器と思われる。『色絵獅子花文鉢』とか『獅子根菜鉢』とか、スッキリした印象で、私は、かえってこっちのほうがオシャレだと思う。

 町人が主人公となった化政年間(18世紀末~19世紀)は、外食が盛んになり、磁器の使用が庶民にまで広がると、粋を体現した青一色の染付が好まれるようになった。ただし、華やかな宴会の光景を描いた19世紀の浮世絵について、これは理想図であり、一般庶民の生活にこれほど磁器が普及していたわけではありません、と注記が付いていたのは面白いと思った。金銀財宝ならいざ知らず、部屋いっぱいに磁器のうつわがあったところで、それが「夢の生活」の表現だとは、ちょっと気づきにくい。絵画資料の読み込みは、よく注意しなければいけない。

 奈良茶碗と呼ばれる蓋つき茶碗は、奈良茶飯(→レシピ)を食べるのに使われた。『西鶴置土産』は、浅草寺門前に奈良茶飯の店があったことを記しているという。展示品の雨文の茶碗は、ご飯用とは信じられないほど小さかった。これなら馬琴の『兎園随筆』にあるという、大食い大会の54杯も可能かもしれない。会場に用意された展示解説シートを読んでみると、江戸の文学や絵画に描かれた食文化が分かって面白い。江戸のA級グルメといえば、会席料理を確立した料亭「八百善」を忘れてはならないが、別の展示室に、国会図書館の「貴重書データベース」から起こした「八百善組立絵」が展示してあった。実に楽しいので、お見逃しなく。

 また、この展覧会は「雨文」「白抜き」「地図」「網目」など、江戸時代に流行したいくつかの文様を取り上げているが、最も印象深いのは、江戸時代後半に大流行した「蛸唐草文」である。蛸唐草(たこからくさ)?と聞いて、はじめは何のことか、分からなかったが、実物を見てみれば、確かにこのペイズリーっぽい唐草文(※画像)、我が家にもあったなあ。日本発祥の文様なのか?と思ったが、中国宋時代の磁州窯の作品に古い例がみられるそうだ。ところどころに、虎を描いたうつわが配されているのは、やはり寅年の新春を意識しているのだろうか。あれ? そういえば、どうして、戸栗美術館のマークは虎なんだろう?

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