見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

鬼あり、如来あり/芸大コレクション展(東京芸大美術館)

2011-05-30 23:45:58 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京芸大美術館 『芸大コレクション展-春の名品選』(2011年4月7日~5月29日、6月7日~6月19日)

 芸大美術館、春恒例のコレクション展。たぶん2008年から毎年行っている。はじめは、芸大コレクションって何があるの?という感じだったが、美術教育の参考として蒐集された古美術の名品から、歴代教員・学生の創作作品まで、バラエティに富んだ内容が楽しめることが分かって、併設の企画展に興味がなくても、これだけは覗こうと思っている。

 今年は、まず、冒頭の特集展示1『絵因果経』(国宝・天平時代)が目玉。奈良時代の作例として知られる伝本はいくつかあるが(詳細はWiki)芸大本は「他本よりやや遅い天平後期」と見られているそうだ。実は、各本少しずつ画風が違うのだそうである。えー並べて見てみたいなあ。今回の展示には、芸大本を鑑定したフェノロサの自筆文書が併せて展示されていて、「whether done in Japan or in Corea(※Koreaのこと), more probably the later」つまり「日本か朝鮮のどちらかで制作されたもの、どちらかといえば後者(朝鮮)であろう」と述べられているのが興味深い。また、明治21年(1881)3月24日付けの「文部省往復文書」には、この作品を220円で買い入れたことが記されている。事務文書とあなどるなかれ、岡倉天心の自筆文書である(確かに、几帳面に角ばった天心の筆跡)。

 あとは高橋由一の『鮭』、小倉遊亀の『径』など、おなじみの作品が並ぶ中で、気になったのは前田青邨の『転生』。いや、その前に、平櫛田中作の立像『転生』のほうが先に目に入った。等身大の木像。火焔を背負った痩せ形の男。あ、仏像だ(明王か天部像)と思って、近寄ってぎょっとした。大きくひんむいた目玉。うつむき加減の口の中から何かが垂れている。長い舌?ではなくて、頭を下に、だらりと垂れ下がった人の姿。なん…だ、これは? パネルの説明を読むと、鬼が子供を食ったが生ぬるいので「こんな生温ッ子(なまぬるっこ)が食えるか、生まれ変わってこい」と言って、火炎の中に吐き出したところ、だという。

 おもしろい。私は「子供」を「我が子」だと思って読んでいたが、冷静に考えると、そうではないかもしれない。どちらだろう。私は、ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』を思い出していたのだ。ゴヤほど恐ろしくはなくて、哀感の中にユーモアがある。ふと隣りを見ると、前田青邨の『転生』という絵画が並んでおり、只者らしからぬ面構えの老人が描かれている。これが彫刻家・平櫛田中。その背後にかぶさる影のように描かれているのが、まさにこの『転生』という作品だった。

 奥に進むと、特集展示2『芸大所蔵の仏教彫刻』のコーナーがある。快慶の大日如来坐像(銘あり)は、石山寺多宝塔の大日如来(これもアン(梵字)阿弥陀の銘あり)と作風が一致するのだそうだ。表面の仕上げがすっかり剥げて、パーツのつなぎ目がはっきり見えるところが、美術学校の教材にふさわしかったのではないかと思う。肥後別当定慶の銘入りの毘沙門天立像も好きだ。踏まれている邪鬼がいい。邪鬼が捉まえている蛇もいい。『天馬双鳳八稜鏡』(平安時代)は裏面(表面?)に刻まれた蔵王権現を見せようとしているのだが、展示企画者の執念が伝わるようで、感心してしまった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« どうしようもない/江戸の密... | トップ | 愛すべき外国人学生たち/日... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

行ったもの(美術館・見仏)」カテゴリの最新記事