〇『天啓異聞録』全12集(愛奇藝、2023年)
年末年始に楽しませてもらったドラマ。明の天啓年間、錦衣衛の一員である褚思鏡は、山海関を超えて、雪の積もる遼東地方に赴いた。この地方で奇妙な疫病が流行っており、感染した者は妖魔の餌食になるという噂を確かめるためである。褚思鏡は寧遠城で楊公公に拝謁したあと、韃官(モンゴル系)の伯顔とともに沿岸の寧海堡に向かう。寧海堡の周辺には、烏暮島の島民が出没していた。彼らの動きを怪しんだ褚思鏡と伯顔は、夜の海を泳いで烏暮島に渡る。島で二人が見たものは、皮膚が鱗化する奇病に苦しむ島民、長老とその弟子、黒衣の集団、謎の少女、そしてクモ形の怪物…。
長老と島民たちは、島の秘密が外に伝わることを恐れ、伯顔を捉えて幽閉する。褚思鏡は、謎の少女・沈淙の助けを得て、舟で海上へ逃れる。その褚思鏡を助け上げた大型帆船の艦長はフランキ(ポルトガル)人のアンジェリカ。彼女の兄は、かつて烏暮島で怪物に出会って命を落としたと伝えられていた。彼女は島でトカゲ形の怪物を捕獲し、帰国の途につこうとするが、黒衣の集団に襲われ、帆船は大破し、再び島へ流れ着く。その頃、幽閉先を抜け出した伯顔は、トカゲ形の怪物の正体が、沈淙の父親・沈譲であることを知る。沈譲は、まだ意志の力で人間の形に戻ることができた。
一方、褚思鏡は、横公という神を祀る異教集団に捕まり、怪物になるための薬水を飲まされる。朦朧とした意識の中で、2年前、この地で消息を絶った双子の弟・褚思鈺が近くにいて自分を呼んでいることを感じる。
【ネタバレ】少しずつ明かされる謎。万暦年間に烏暮島の近海に隕石が落ちた。そこから何らかの病原菌が流れ出し、徐々に海産物を汚染していったのである。烏暮島では魚を食べることを禁忌にしていたが、それを破った者から奇病が広まった。2年前、明軍の兵士だった沈譲は、戦いに敗れて故郷の烏暮島に戻ってきたが、妻の蘇沐冉の様子がおかしいことに気づく。蘇沐冉は横公に忠誠を誓い、怪物を操って人々を支配しようとしていた。その野望を阻止したのは、島に滞在していた褚思鈺である。蘇沐冉と褚思鈺は崖上から海に落ちたが、蘇沐冉の遺体しか見つかっていなかった。
蘇沐冉の野望を受け継いだのは、長老の弟子、賀子礁だった。彼は、蘇沐冉の能力を受け継いだ沈淙に怪物を操らせ、島民と褚思鏡らを襲う。父親の沈譲は命を賭けて島民たちを守り、愛娘の沈淙をも救おうとする。しかし賀子礁の弟・賀六渾は、混乱する沈淙に再び怪物を操らせ「尊主」に会わせようと、彼女を連れて海の底に消える。
褚思鏡、伯顔、アンジェリカらは、舟で海に乗り出し、珊瑚礁の中の洞窟に踏み入る。ひとり夢幻境に迷い込んだ褚思鏡は、弟の褚思鈺と対面するが、その正体が、弟の姿を借りた別の何者かであることを見破る。褚思鏡は、その何者かに向かって、自分が沈淙に代わってここに残ることを申し出る。褚思鏡は海底の洞窟に残り、他の人々は無事に帰還する。その後、母国へ向かうアンジェリカの船には沈淙の姿があった。
う~ん、最後はよく分からないまとまり方だったが、全体的におもしろかったからいいか、という感想である(海底で褚思鏡の前に現れたのは、隕石とともに地球に到達した宇宙生命体なのかな?)。舞台はずっとどんよりした雪景色の海辺、暗い画面、奇病の原因となる魚が思わせぶりにビチビチ跳ねていたり、ホラーな雰囲気もよい。怪物との戦いは、重心の低いリアリティのあるアクション(武侠ファンタジー的な超人技は見せない)で手に汗握った。
俳優さんが私の好きな演技巧者揃いだったのもポイントが高い。褚思鏡/褚思鈺二役の黄軒は少し体重を増やしたかな。私はイケメン枠だと思っているのだが、劇中で「叔叔(おじさん)」と呼ばれていて苦笑してしまった。伯顔の呉樾を見たのは初めてかもしれないが、大好きになった。沈譲の蘆芳生さんは父性を感じさせる役が似合う。半分トカゲになりかかっていてもカッコよかったが(笑)、完全なトカゲ男はデジタル合成なのかな。どうやって撮っているんだろう。アンジェリカは台湾国籍の張榕容さん。映画『黒猫伝』の楊貴妃を演じた方だが、全然雰囲気が違っていて驚いた。
なお、視聴者投票サイトの評価はあまり芳しくない。中国の視聴者は、こういう荒唐無稽なドラマ作品をあまり好まないように思われるが、昭和の特撮ドラマで育った私には大好物なので、嘘八百を大人の俳優が真面目に演じるドラマ、どんどん作ってほしい。