見もの・読みもの日記

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扇面図流屏風の源氏絵など/大倉集古館の春(大倉集古館)

2024-01-28 21:13:57 | 行ったもの(美術館・見仏)

大倉集古館 企画展『大倉集古館の春~新春を寿ぎ、春を待つ~』(2024年1月23日~3月24日)

 令和6年の春を祝し、干支や吉祥、花鳥風月をテーマとした絵画を中心に展観する。かなり見応えのある作品が揃っていた。宗達派の『扇面流図屏風』はいつ以来だろう? 左右が別々のケースに展示されていた。波間を不安定に漂う扇面には、金・紺・碧・白など少ない色数で、メリハリのある草花などが描かれ、よく見ると細い筆で古今和歌集の歌が添えられている。さらに扇の間に小さな源氏絵の色紙が貼られているのだが、もとは波と扇面だけが描かれており、後の時代に源氏絵が貼り付けられたと見られているそうだ。源氏絵の主題は《右隻》(1)葵(2)須磨(3)薄雲(4)常夏(5)空蝉(6)玉蔓(7)柏木《左隻》(8)花宴(9)夕顔(10)若紫。すぐに分かったのは、碁盤の上の姫君を描く「葵」と、逃げた雀を見送る女性たちの「若紫」(嵯峨本の挿絵などによくある構図)くらいだった。

 隣に金地に着彩で花卉図を描いた扇が並んでおり、琳派かな?と思ったら、中国・清朝のものだった。両者は意外と近いのかもしれない。中国ものは布製品が面白かった。『紫繻子地雲龍模様刺裂』は、50センチ幅くらいの帯のように長い赤紫色の布で、同系色の龍が一列に並んでいる。用途不明だが、満州八旗の正紅旗の旗などかもしれない、と解説にあった。色鮮やかな『男靠(鎧)』(黄緑とピンク)と『蟒袍』(青紫色に虹のような裾模様)は、京劇の衣裳と推測されている。芝居好きの大倉喜八郎は中国で京劇に魅せられ、1919年、海外初の京劇公演を日本で実現させた。歌舞伎役者と京劇役者(梅蘭芳も)に囲まれた大倉喜八郎の写真も展示されていた。

 2階は絵画を中心に。横山大観の大作『夜桜』が展示されていたが、あまり良さが分からない作品である。1930年、ローマで開催された日本美術展覧会に出品されたもので、海外の観客にも分かりやすい作品を、という意図で描かれたそうだ。私はむしろ大観の『文鳥』『寒牡丹』という小品が、めずらしくよいと思った。それから、作者不詳の『柳に鷺図屏風』(江戸時代、18世紀)が気に入ってしまった。パターンを貼り付けたような白鷺の姿が面白く、知的で近代的なセンスを感じる。もう1点、綬帯鳥らしい鳥を描いた『花鳥図』2幅対(江戸時代、17世紀)もよかった。作者不詳でも気に入ったものはコレクションに加えていたのだな。

 変わったところでは、組香のセット『御家流十組香三十種』から20種の香の包みが展示されていた。包み紙には組香の名前に合わせた絵が描かれており、「源平香」ならば白旗と赤旗、「星合香」は七夕だが、男女の姿ではなく、丸を線でつないだ三つ星が2つ(白と金、角度が違う)描かれていた。そうそう、中国では織女も牽牛も三つ星で表現するんだったと思う。たぶん山形の金色の三つ星がこと座のベガ(織女)で水平に近い白色の三つ星がわし座のアルタイル(牽牛)ではないかな(いま調べた)。

 また、保坂なみ(1878-1960)による精緻な刺繍作品も印象に残った。保坂は共立女子学園で刺繍の教師をしていた人物で、明治時代、刺繍は、女性自立のための新しい技術・職業として期待されていたという。忘れられかけた歴史に触れたようで面白かった。共立女子大学博物館には、機会を見つけて行ってみたい。

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