〇根津美術館 企画展『仏具の世界 信仰と美のかたち』(2023年2月18日~3月31日)
主に館蔵品から、さまざまな場面で用いられる仏具を紹介し、仏の教えと仏具の造形美の関わりを探る。地味な展覧会だが、私のような仏教美術好きには面白かった。
はじめに目に留まったのは紺紙金字の『神護寺経(陰持入経)』。状態がよいのか照明のせいか、金字が濡れたように輝いていた。鳥羽天皇が発願し後白河天皇が寄進したという由来も(二人の関係を思うと)しみじみする。墨染めの細い竹ひごを錦布で縁取りした経秩は、何度か見たことがあると思うが、本品は秩の両端と紐の結び目に蝶型の金具が残っていて、90度の角度に羽を広げた姿は蝶というより蛾を思わせる。調べたら、白州正子はこれをブローチに仕立てて身に着けていたとのこと(旧白州邸・武相荘)。さすがだ。
室町時代の『黒漆春日厨子』は、外側は全く装飾のないシンプルな造形。扉の左右には多聞天と増長天を描く。内部の背面には、小さな散華が数枚舞っているが、ほぼ漆黒の闇。朝鮮時代の『粉青印花牡丹文厨子』は、横長の陶器の厨子で、正面の蓋が取り外しできるようになっている。上面には屋根の棟のような飾りがついており、携帯用のランチボックスを思わせる。内部には金銅の薬師仏が収まっていた。解説に「類例がない」とあったけれど、確かに初めて見た。
法会や供養に使われた仏具、銅製の『鉢(応量器)』は東大寺伝来とのこと。そのとなり、やはり銅製の『香水杓』は、何も解説がなかったが、東大寺修二会に関係するものではないかと思う。この季節に展示してもらえて、嬉しかった。後半には、鎌倉時代の『弘法大師像』と『崔子玉座右銘断簡(空海筆)』が出ていて、根津嘉一郎と高野山の関係を思い出した。展示室2は「仏教美術と女性の信仰」をテーマに『普賢十羅刹女像』(平安時代)や各種の繍仏、そして女性の着物を仕立てなおした幡や打敷が展示されていた。
展示室5は「西田コレクション受贈記念I IMARI」を開催。根津美術館顧問の西田宏子氏より寄贈された陶磁器など工芸品169件から優品を選び、3回に分けて展示する。第1季「IMARI」では、西田氏がオランダ・イギリス留学時代に収集した作品が中心で、17~18世紀のやきものの東西交流が窺える。今後、中国陶磁や朝鮮陶磁の展示も楽しみである。いずれ図録も買ってしまいそうだ。
展示室6は「花どきの茶」。実は色とりどりの「花」を描いたものはほとんどなくて、地味な粉引茶碗や御本茶碗が「花の白河」や「吉野」に見立てられているのが奥ゆかしく、面白かった。