見もの・読みもの日記

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オールドファッションの魅力/映画・崖上のスパイ

2023-02-20 00:44:51 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇張藝謀(チャン・イーモウ)監督『崖上のスパイ』(新宿ピカデリー)

 1930年代、抗日戦争下の満州国。ソ連で特殊訓練を受けた共産党のスパイ4人組(男性2人:老張、楚良、女性2人:王郁、小蘭)がパラシュートで雪原に降り立つ。彼らの任務は、日本軍の極秘実験の詳細を知る人物・王子陽の国外脱出を助け、日本軍の非人道的な振舞いを世界に知らしめること。作戦名はロシア語で夜明けを意味する「ウートラ」。4人組は、男性1人、女性1人ずつの2組に分かれ、ハルピンを目指す。

 その頃、満州国特務科長の高彬は、すでに共産党の動向を察知し、共謀者の謝子栄の口を割らせて、4人組に関する情報を得ていた。高彬の部下の周乙、魯明は、共産党の同志を装って、楚良と王郁に近づき、彼らを監視下に置く。老張と小蘭はハルピン潜入に成功するが、老張は単独行動の際に捕えられ、厳しい拷問を受ける。

 脱走を企てた老張を助けたのは特務科股長(係長)の周乙だった。彼は特務科に潜入した共産党のスパイだったのだ。しかし老張は脱出に失敗し、最終的に命を落とす。高彬は特務科内に内通者がいることを疑い、部下の周乙、金志徳の行動を監視しながら、最後に残ったスパイ・小蘭を捕えようとする。周乙は、楚良と王郁の逃亡を助けようとするが、特務部隊の追撃を受け、追いつめられた楚良は服毒して命を絶つ。しかし周乙は小蘭との接触に成功。

 後日、人気のない雪山の道路には、王子陽を国外に送り出す周乙と小蘭の姿があった。そののち、周乙は、山の中に隠れ住む王郁のもとに1組の少年少女を連れて現れる。それは老張が探していた、彼と王郁の子供たちだった。

 あらすじは以上。スパイや二重スパイが絡むものの、善悪の描き方はわりと単純で、謎解き風味は薄い。敵味方の間で、次々に展開する多様なアクション(汽車の中だったり、入り組んだ路地裏だったり、クラシックカーのカーチェイスだったり)と頭脳戦を楽しむエンタメ作品である。全編、雪の中(ほとんどの場面で雪が降り続いている)が舞台で、登場人物たちは毛皮の襟つきのぶ厚いコートと防寒用の中折れ帽、あるいは毛糸の帽子と襟巻に埋まり、個性や表情を最小限しか見せない。映像も人物の行動様式も、ストイックでオールドファッションな美学で貫かれている。

 主役はスパイ4人組(老張=張訳、楚良=朱亜文、王郁=秦海璐、小蘭=劉浩存)なのだろうが、個人的には特務科の面々が、ドラマでおなじみの俳優さんばかりで楽しかった。何を考えているのか測りがたい冷徹な特務科長・高彬に倪大紅。共産党の二重スパイで八面六臂の活躍をする周乙に于和偉。食えない下っ端特務官の金志徳に余皑磊。この配役、考えられる限り最高である。さらに共産党の仲間を売って高彬の追従者に成り下がる、臆病者の謝子栄を演じる雷佳音もよい。ちなみに本編完結の後に、裏切者の謝子栄が周乙に「成敗」されるシーンが、やや唐突に挿入されている。この雷佳音と于和偉の演技が、無駄に見応えがあって眼福だった。

 本作は中国では『懸崖之上』のタイトルで2021年に公開されているが、2012年に放映された連続ドラマ『懸崖』の前日譚であるという記述を中国語wikiに見つけた。調べたら、周乙を張嘉益が演じているのか。なるほど。CCTVチャンネルで視聴できそうなので、そのうち見てみようかしら。

 また『懸崖之上2』の制作が予定されているという情報も見た。チャン・イーモウ監督の、まだまだ面白い作品を撮り続けたいという意欲には敬服する。本作も含め、最近の中国映画は、明らかに「共産党のプロパガンダ映画」の枠に嵌められているけれど、でも確実にエンタメ作品として面白いのだ。とりあえず私は、今年の春節映画『満江紅』が早く見たい。

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