見もの・読みもの日記

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2022年5月関西旅行:最澄と天台宗のすべて(京都国立博物館)

2022-05-10 09:50:17 | 行ったもの(美術館・見仏)

京都国立博物館 伝教大師1200年大遠忌記念・特別展『最澄と天台宗のすべて』(2022年4月12日~5月22日)

 関西旅行2日目は京博からスタート。開館20分前くらいに行ってみたところ、まだ列はできておらず、10~15人くらいがパラパラと門前に立っていた。しばらくすると中の人が出てきて「博物館のフェンスに沿ってお並びください」とアナウンスする。結局、開門前には50人前後が並んだと思うが、いつもの特別展に比べると、少ないほうだと思う。

 ほぼ先頭で入館できたので、巡路どおり第1室から見ることにした。冒頭には兵庫・一乗寺の『聖徳太子及び天台高僧像』から「龍樹」と「善無畏」。善無畏像はいちばん好きなので、得をした気分。龍樹像も赤やピンクが基調で、華やかで美しい。東京では見られなかった兵庫・福祥寺の『天台四祖像』(南北朝時代)が並んでいた。左上の四租・灌頂が僧侶らしくない風貌で目につく。

 第1室は『伝教大師入唐牒』『弘法大師請来目録』(東寺、最澄筆)など、最澄の筆跡を中心に、国宝・重文級の文書がずらりと並ぶ。第2室には、朱塗・金の金具の勅封唐櫃とその納入品が展示されており、勅使を迎えて、勅封を解く儀式のビデオが流れていた。

 階下へ。2階は絵画中心だが、私の見たかった菩薩遊戯坐像(伝如意輪観音)(愛媛・等妙寺、鎌倉時代13世紀)を見つけて直行する。小さいが神経のゆきとどいた精巧な像だ。ゆったりした長い衣、華やかな瓔珞にもかかわらず、すぐに戦闘モードに入れそうな、男性的な印象である。ちょっと『陳情令』の含光君を思わせる。

 絵画は、京都・三千院の『阿弥陀聖衆来迎図』(鎌倉時代)が来ていて、ああ!と声が出てしまった。前日、中之島香雪美術館で、そっくりの模本(滋賀・金剛輪寺伝来)を見たばかりだったので。鎌倉時代には立像の来迎図が一般化するが、本作は、かなり古い来迎図を写したものと考えられている。三重・西来寺の『阿弥陀四尊来迎図』(鎌倉時代)は半跏坐の阿弥陀如来と観音・勢至、それに地蔵菩薩を加えたもの。みんな丸顔でかわいい。

 京博の『閻魔天曼荼羅図』、奈良博の『普賢菩薩像』などの名品に続いて、極めつけは『釈迦金棺出現図』。たぶん、2018年1月に東博の国宝室で見て以来である。みんな優しい顔で、特に釈迦如来が、母親に向き合う息子の顔なのが、なんとも言えない。

 1階の大展示室では、日吉山王金銅装神輿(樹下宮)(ひえさんのうこんどうそうみこし、じゅげぐう)の前で、しばらく足が止まってしまった。以前にも展覧会で古い神輿を見た記憶がある。おそらく、2013年の『大神社展』で見た、和歌山・鞆淵八幡神社の『沃懸地螺鈿金銅装神輿(いかけじらでんこんどうそうしんよ)』だろう。鞆淵八幡神社の神輿が、平安末期~鎌倉初期のものと推定されているのに対し、こちらは江戸時代の作。ぐるぐる巻かれた太い綱、厚みのある金具など、頑丈そうで、力強く、華やかである。基台の四方を囲む金色の飾り金具には、松の枝で群れ遊ぶサル(神猿)の群れが浮き彫りになっている(会場の巡路や出口を示すバナーにもこのサルが使われてて、可愛かった)。

 彫刻は、愛媛・浄土寺の空也上人像(六体の小仏を口から吐いている)、大阪・興善寺の釈迦如来坐像と薬師如来坐像など。びっくりしたのは、延暦寺横川の聖観音菩薩立像がおいでになっていたことだ。遠目に見つけた瞬間、もしや…と思って近づき、歓喜した。2005年の秋に、ここ京博(旧本館)の『最澄と天台の国宝』展でお会いしたときの感慨がよみがえった。

 1階の奥の部屋(特別展示室)には、延暦寺根本中堂の不滅の法灯が再現展示されていた。展示の灯りは電飾だと思うが、「不滅の法灯」の解説に「これは本当に最澄以来守り継がれてきたものです」とあって、念押しの強調に笑ってしまった。

 さて天台の名宝は、まだたくさん。絵画は、福井・國神神社の『白山参詣曼荼羅図』、愛知・密厳院の『兜率天曼荼羅図』など、初めて見たものも多い。美麗な『聖徳太子二侍者像(廟窟太子)』(鎌倉時代)には所蔵者情報がなかった。昨年は聖徳太子の御聖忌記念展で「廟窟太子」の図をいくつか見たが、これは初見だと思う。『阿弥陀聖衆来迎図』(滋賀・西教寺)は、雲のなびき方から「迅雲来迎」と呼ばれるもので、見ていた子供が「ほんとだ!速いね!」と感嘆していた。

 文書でおもしろいと思ったのは、後深草院の消息(正応5/1292年5月)で、興福寺及び延暦寺の強訴の動向を伏見天皇に尋ねたものだという。また花園天皇の消息(正慶2/1333年閏2月、尊円親王宛てか)には、延暦寺根本中堂に飛び込んだ鳩が常明灯を消した一件が綴られており、「常燈事鳩消」の文字が私にも読めた。

 楽しかった~。東博と京博を見たわけだが、京博のほうが演出や解説が少なめで(常設展示室を特別展に転用しているので、あまり凝った演出ができない事情もあるかもしれないが)超級のお宝を淡々と展示する態度が私の好みである。

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