見もの・読みもの日記

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江戸時代の天文資料(大阪市立科学館オンライン講座)お試し視聴

2021-09-04 19:03:36 | 行ったもの2(講演・公演)

大阪市立科学館 連続オンライン講座 第1回『科学館にある江戸時代の天文資料を詳しく紹介』(講師:嘉数次人、2021年9月4日、10:30~)

 大阪市立科学館では、学芸員が、それぞれの専門分野や同館の資料、あるいはタイムリーな話題などについて話す連続オンライン講座(計11回)を開講中である。コロナ禍で一気に増えたオンラインイベント、あまり高額なものは敬遠していたのだが、これは1回300円と格安なので、お試しに視聴してみた。

 はじめに紹介されたのは、渋川春海(1639-1715)の『天文分野之図』。縦は1メートルを超える一枚の摺り物である。科学館所蔵本は掛軸状に表装されており、ふだんは館内に常設展示されているそうだ。講義では、平台上に広げた資料を講師(?)がハンディカメラで撮影しながら解説してくれた。細かい文字まで接写で見ることができたのはありがたいが、微妙にカメラが揺れるので、ちょっと酔いそうになった。

 摺り物の上部には、大きな円形の星図が描かれている。その周囲に方角を示す十二支と日本の国名(令制国)が書かれていることには初めて気づいた。子(北)に越前や若狭、午(南)に紀伊や和泉という記載から分かるように、中心は京都(機内)である。もともと中国では、天を東西南北と中央の五つに分けて(五行思想だ!)地上の地方と対応させ、この星の付近で流れ星があるとこの地方で何があるというような、分野説に基づく天文占(てんもんせん)が行われてきた。春海は、これを日本の国土にあてはめたのである。だから星図のタイトルが『天文分野之図』なのか。

 講師によれば、古代の天文学は「暦学」と「天文占」から成るそうだが、春海が中国の暦を調整して日本に適した『貞享暦』を作り出したことと、日本の天文占に必要な『天文分野之図』を作ったことに、共通する問題意識があることは理解できた。

 天文占は春海のライフワークで、『天文瓊統』では、ヨーロッパや太平洋地域など、世界の地方を分野配当しているそうだ。また『天文成象』所載の星図には、中国由来の星座に加えて、春海が独自に創作した星座61個(星数308個)が掲載されている。この日の講義では、『天文成象』の星図を引用した『天経或問註解』の版本を映しながらの解説があった。織女星の近くに「天蚕」を置くなど、中国星座にちなむものもあるが、「大宰府」など、日本の社会・官僚制度に添ったものもある。私は、むかし国立天文台で『天文成象』(いや『改正天文図説』かもしれない?)を見たことがあって、この「大宰府」の文字を不思議に思ったことを思い出した。

 講義の後半は、優れた望遠鏡を多数製作し、天文知識の普及にも貢献した岩橋善兵衛(1756-1811)の紹介。このひとの名前は知らなかった。大阪市貝塚の商人なのだな。岩橋の『平天儀』は、台紙に4枚の紙の円盤を重ね、ぐるぐる回すことで、一年間の特定の日・特定の場所(経度)で見える星座・月の満ち欠け・潮の満ち干などが分かる仕掛けになっている。また『平天儀図解』には、この円盤の使い方の解説のほか、様々な天文の知識がまとめられている。漢字仮名交じりで振り仮名の多い文章ので、漢文が基本の春海の著作に比べれば、ずっと読みやすそうだ。どのくらいの部数が、どのような階層の人々(裕福な町人とか?)に読まれていたのか、気になった。

 江戸の天文学には、むかしから細々と関心を持ち続けているので、久しぶりに関連の話が聞けて楽しかった。また、ネットで少し検索してみたら、様々な資料や研究論文が、むかしよりずっと手に入りやすくなっていたのも嬉しく思った。

天文分野之図(国立天文台)…画像と解説

星空に親しむ:宇宙探検ガイド第1回/国立天文台 高梨直紘…スライドの17枚目に中国13世紀の淳祐天文図(蘇州天文図)の翻刻画像あり。星図のいちばん外枠に方位(子、丑、寅など)と地名らしきもの(揚州、幽州、豫州など)が見える。そのほかに呉、燕、宋などとあるのも旧国名(地方名)か。星紀、析木、大火というのは何だろう?と思ったら「十二次」と言って、天球を天の赤道帯にそって西から東に十二等分したものだそうだ。

江戸時代の星座/嘉数次人(天文教育2009年7月号)…本日の講師の論文。渋川春海の創作星座に関する解説あり。

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