見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2014年12月@東京歳末:天才陶工 仁阿弥道八(サントリー美術館)他

2014-12-31 13:18:24 | 行ったもの(美術館・見仏)
山種美術館 特別展 没後15年記念『東山魁夷と日本の四季』(2014年11月22日~2015年2月1日)

 暮れも押し迫った12月28日(日)の東京で、まだ開いている美術館をピックアップして巡った。東山魁夷にはあまりよい印象がない。中学だか高校だかの国語の教科書の扉絵に魁夷の作品が載っていて、いかにも女性好みの叙情的な色彩、文学趣味が鼻について、好きになれなかった。まあでも行ってみたら、岳父の川崎小虎や、師にあたる川合玉堂、結城素明など、ほかの画家の作品もいろいろ見られて面白かった。

 見どころのひとつは大作『満ち来る潮』。昭和43年に皇居宮殿が新築されるにあたり、複数の日本画家が装飾壁画を制作した。山種美術館の初代館長・山崎種二は、広く一般の人々も宮殿内の壁画を知ることができるようにと、同趣の作品制作を依頼し、その結果、東山魁夷、上村松篁、橋本明治、山口蓬春、安田靫彦らの作品が同館コレクションとなった。

 魁夷の作品『朝明けの潮』は、写真説明によると、ときどきテレビに映る宮殿内の大広間(謁見などのセレモニーに使われる)の大きな階段の上にあるようだ。金銀に輝く海原に、激しい波濤に洗われながら、確固とした存在感を見せる岩礁を描く。琳派や狩野派の作品を思わせる伝統的な画題でもあり、弓なりに細長く連なる岩礁が日本列島の姿にも思われる。

渋谷区立松濤美術館 『天神万華鏡~常盤山文庫所蔵 天神コレクションより~』(2014年12月9日~2015年1月25日)

 昭和18年、鎌倉に実業家・菅原通済により創設された常盤山文庫のコレクションから天神に関係する絵画・版画などを出陳。同趣旨の展覧会はいくつか見たことがあるが、やはりこれだけ集まると興味深い。天神・菅原道真の姿は、実にさまざまな画家に描かれている。禅宗や黄檗宗の僧侶、狩野派、土佐派、琳派の画家たち、遠く中国寧波の画工たちにも。

 「渡唐天神」の図が、初期は道服に足袋という和漢折衷スタイルであったものが、中国で日本人向けの土産物として描かれるようになると、さすがに珍妙すぎるということで、沓を履くようになったというのは面白かった。それから、天神につきものの植物といえば梅だと思っていたが、古い作品では松と梅、もしくは松だけを描いた作品も多かった。

 2階は「菅原伝授手習鑑」を題材とする浮世絵が主。また「月影館コレクション」より、梅を題材にした中国の水墨画展も併設。

サントリー美術館 『天才陶工 仁阿弥道八』(2014年12月20日~2015年3月1日)

 仁阿弥道八(にんなみどうはち、1783-1855)は、京都の陶工・高橋道八家の二代目にあたり、清水五条坂を拠点に活躍した京焼の名工。知っているのは名前くらいで、あまり具体的な印象はなかったが、とりあえず展覧会に行ってみた。

 前半(4階、第1展示室)では、その「鋭い観察力と卓越した技量」を、数々の「写し」によって紹介。要するにコピー作品である。朝鮮の伊羅保茶碗の写し、青磁象嵌の写し、中国景徳鎮ふう祥瑞茶碗の写し、南蛮芋頭水指の写しなど。展示方法が面白くて、それぞれ「本物」と仁阿弥の「写し」を並べているのだが、素人には見分けがつかない。私の好きな楽茶碗も、道入の黒茶碗(銘・山里)と仁阿弥の「写し」の前で、すっかり混乱してしまった。

 「利休七種写黒茶碗」は、楽家初代・長次郎作の茶碗のうち、千利休が名作と見立てた茶碗(黒楽茶碗3種、赤楽茶碗4種)の「完コピ」である。すごい!欲しい! 調べたら、黒茶碗の「大黒」「東陽坊」(ともに個人蔵)と赤茶碗「早船」(畠山記念館蔵)しか現存していないのだな。もっとよく鑑賞してくればよかった。
  
 仁阿弥道八の作家性が発揮された作品としては、雪竹絵文の鉢が好きだ。紫陽花文の鉢もモダンで愛らしかった。このセクションでは、実際に使うなら、どんな料理を盛るかを一生懸命考えていた。色彩鮮やかな桜楓文の鉢には、大根とか蕪とか白い野菜がいいかな。雪竹絵文の鉢には、絵に逆らって、熱々の焼き物なんかどうだろう、など。

 後半(3階)は、置物、手焙、炉蓋など、おおぶりの「彫塑的作品」が大集合。とても楽しい。ポスターや公式サイトのアイコンになっている寿星(寿老人)立像や黒猫の手焙、実物を見ると、こんなに大きかったのか!とあらためて驚く。『色絵兎置物』(ボストン美術館蔵)は、色彩も動きも最小限に抑えた表現にもかかわらず、可愛い~と立ち止まる女性多し。『黒楽銀彩猫手焙』は、目を細め、肩をすくめるような猫の似姿で、火種を入れる蓋が背中についている。猫は背中を触られることが好きでないので、背中を触ろうとすると、こんな表情を見せる、という解説を読んで、きっと猫好きな学芸員さんだな、と微笑ましかった。
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