「音楽&オーディオ」の小部屋

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読書コーナー~小説家が読むドストエフスキー~

2007年11月04日 | 読書コーナー

「小説家が読むドストエフスキー」(2006年1月、著者加賀乙彦、集英社新書)

19世紀ロシアを代表する作家ドストエフスキー。

その作品群については一応読書家の端くれだから、常に頭の片隅に
最高峰の文学という意識があり何時かは腰を据えてじっくりと読まねばと思っている作家である。

退職してフリーとなり、時間にたっぷりと恵まれた境遇になってみると、
”ドフトエフスキーを読まなくては”と妙な義務感にかられたことをよく覚えている。

どちらかといえば自分にとっては”読みたい作家”というよりも”読まねばならない作家”という半強制的な位置づけといえる存在。

そういうこともあり、それぞれの作品が大部でその分厚いことも手伝って実は今だに敬遠ぎみというのが本音である。いずれ病気にでもなって、入院でもすればじっくりとベッドの上で読ませてもらおうかと横着に構えているところ。

さて、何故そのような義務感をドストエフスキーに持つのかと問われると自主性の無さを顕にするようで少し恥ずかしいのだが、一番の理由はいろんな作家の自伝や著作を読んでいると影響を受けた作家のトップに彼を上げている例が実に多いことからである。それも実に熱っぽく語っているのがほとんど。

たとえば直木賞受賞作家の原 寮氏などは、ドストエフスキーを読むとどんな人でも人生観が変わるとさえ断言している。文字通りプロの作家が多大な影響を受ける作家というのだから、ドストエフスキーはその上の上をいく存在なのだろう。

さて、ドストエフスキーの作品は果たしてどこがそんなにいいのか、そこで冒頭に掲げた本が
、どんぴしゃりの回答を出してくれる。表題どおり、プロの小説家の目でドストエフスキーの小説の構造、伏線の張り方、人物の造型法、さらには小説に仕掛けられた謎などを解析したものである。

小説家=著者の加賀乙彦氏は東大医学部を卒業し、精神医学を専門とする医師で上智大学教授などを歴任。2000年には日本芸術院会員に選出され、「フランドルの夢」「帰らざる夏」など著書多数。

本書で解説されている作品は「死の家の記録」「罪と罰」「白痴」「悪霊」「カラマーゾフの兄弟」の5作品となっている。いずれも実に懇切丁寧に読者に分かりやすい内容になっており、著者のドストエフスキーに対する畏敬の念もしっかりと伝わってきた。

さらに著者が精神医学の専門家の視点から癲癇(てんかん)の病気もちだったドストエフスキーの「死」に対する人間の描き方、宗教的な主題に独自の分析をしているところに本書の最大の特色があると思った。

断片的になるが印象に残った語句を紹介。

世界の全ての小説の中で「白痴」が一番の傑作(72頁)

「白痴」が分かると「悪霊」が分かりやすくなり「悪霊」がわかってくると最後の大作「カラマーゾフの兄弟」が分かりやすい。(102頁)

20世紀の作家は全てドストエフスキーの肩の上に乗っている。ドストエフスキーを読まずに小説を書きはじめた人は私の周辺を見回してもいない。(116頁)

ロシア的なキリスト教の形のもとで、いずれの作品ともに犯罪、殺人が主題になっており、罪の極点を描くことで逆に神の愛が描かれている。罪も愛も無限定で極端で途方もないエネルギーに満ちていて、この作品群の究極の姿、総決算が「カラマーゾフの兄弟」です。「カラマーゾフ万歳!」(212頁)

そういえば先日の新聞(朝日)で「カラマーゾフの兄弟」が新訳により光文社から文庫本5冊に分けて発売されたところ、売れ行きが予想外の好調との記事が掲載されていた。やはり世の中には真摯な読書好きの方がいるものである。

自分も少しは爪の垢を煎じて飲まなければと反省させられた。(反省だけなら猿でもできる!?)

                           






 

 

 

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