このところすっかり内田康夫さんの推理小説「浅見光彦シリーズ」にハマってしまって、次から次に読み漁っている。
さて、そのうちの一冊「札幌殺人事件」の中ほどに次のような記載があった。”飲み屋のママさん”による諺(ことわざ)として紹介されていたもので、なかなか巧みな比喩だと思ったのでそのまま解説(引用)してみよう。
「月の出を待つ月曜日」
「灯(ひ)ともしごろの火曜日」
「ブルーな水曜日」
「気まぐれな木曜日」
「ゴールドの金曜日」
月曜日は会社の仕事が溜まっているせいか、お客の出足が遅い
火曜日はその反動のように夕暮れとともにお客が訪れる
水曜日は中だるみで閑古鳥(かんこどり)が鳴く
木曜日はその週によってまったく読めないほど波がある
そして、金曜日こそは文字どおり「お金」になる日
というわけ。どうです、思い当たる節がありませんか?
思わず現役時代の頃の「花金」(花の金曜日)という言葉を想い出してしまった。卒業した今では「毎日が日曜日」で、すっかり曜日の感覚が遠のくばかりである。贅沢な悩みかもしれないが、やはり一抹の淋しさも隠せないところ。
その「花金」(2月13日)だが、久しぶりに高校時代の同窓で現役でバリバリ働いているM平君との飲み会が待ち受けている。
閑話休題。
さて、先日のブログ「理想的なオーディオシステム」の中で、クラシック音楽からジャズまで広範な音楽を満足して聴こうと思ったら少なくともスピーカーシステム(以下「SP」)は「三とおり」ほど要るとの話をしておいた。
すかさず、ある人から異論があって完璧なSPが”ひとつ”あれば、どんな音楽でも十分鳴らせるはずとのご指摘をいただいた。
基本的には各人の音楽の聴き方に関連してくる話なので”人さまざま”で諸説があって当然とも思うが、まあ音楽の聴き方はどれが一番いいとは簡単に言えないところ。
自分の場合、よく言われている話だが「クラシックは明るめの音でSPの奥の方に広がって展開する」、「ジャズは暗めの音で前へ前へと出てくる」を一応モットーにしている。
以前にも書いたことがあるがクラシック音楽の伝統は、教会や劇場の中などで演奏者の”直接音”と壁や天井に当たって跳ね返ってきた”間接音”とが微妙に入り混じって聴く音楽であり、ジャズは「ストリート・ジャズ」(街路演奏)という言葉にもあるように直接音、つまり楽器の音色そのものを楽しむ(もちろんリズムも)音楽だと思うから。
常日頃こういう聴き方を念頭に置いていれば、およそクラシックとジャズの十全な鑑賞がそもそもハナっから両立できないことは分かっていただけるかと思う。
もっとも、クラシック・オンリーにしてジャズを聴くようにしなければオーディオも随分と楽なのだがあの「シンバル」のチリーンといった澄んだ音や「ベース」の分厚い音なんかはやはり「オーディオ・マインド」を大いに刺激してくれるので簡単に捨て去るわけにはいかない。
ところがである。つい先日(2月8日)、太宰府市のマニア宅に所要があってお邪魔し、丁度いい機会とシステムの音を聴かせてもらったところ、実にうまい具合に鳴っていた。
「音が奥に広がる」とか「前に出てくる」とかいった表現ではとても追いつかず、「録音されている音が忠実に再現されている、いわゆる”原音再生”とはこういうものか」という印象で、まるでオーディオ装置を意識させない音とでも言おうか。
そのシステムの概要だが、部屋の一部を天井から遮断して全面バッフルで仕切り、SPはウェスタンのホーンを交えて4ウェイ、アンプは自作のドデカイ真空管式(WE300B)で電源部は別、オリジナル製作品の「タイム・アナライザー」の真空管はSTC、コンデンサーは東一(銅箔)、そしてソースはレコードとCD。
まず、「この演奏(録音)の年代を当ててみませんか」とヴァイオリンのCDを鳴らされた。一聴して針音ノイズがするので古いSP時代の録音だと分かったがそれにしてはヴァイオリンの音色が実に鮮明に聞こえるので1940年前後でしょうと言ったところ「残念でした~」。
何と1926年の演奏だとおっしゃる。ヴァイオリニストはあの伝説のフリッツ・クライスラーで曲目はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。
何とも気品があって言葉に言い尽くせないほどの「ふくよかな音色」でクライスラーの芸格が現代に蘇ったとでもいうべきもの。SP盤をCDに焼き直したものだがこういう音で聴ければ懐古趣味だけでなく音楽としても十分鑑賞できる。
それにしてもこのシステムの再生能力には驚く。4ウェイということは低域から高域までの可聴帯域(およそ20ヘルツ~2万ヘルツ)を再生するのにSPユニットが4個あるということだが、各振動板の位置が前後まちまちなのにもかかわらず音像定位に不自然感がないし、「低域の遅れ」が無くてそれぞれの帯域のスピードが見事に整っているので「4つのSPユニット間の位相の調整はどのように解決しているのですか」とお訊ねしたところ、得たりや応と「各SPからの逆起電力をきちんと処理すれば関係ない」とおっしゃった。
この辺になると自分にはまったく手が出ない電気技術の粋を極めた世界になるが、独自の工夫によるネットワークの構造やコンデンサーなどの部品をよく吟味して電気の流れやロスをきちんと把握し制御していればこういう音になるということらしい。
たとえ理屈がどうであれ、この音がハッキリと証明しているのでイヤでも納得。我が家の音も「逆起電力」の処理をきちんとやれば、随分と音が良くなるのだろうが、さてどこをどうすればよいものやら。
「とりあえず、あのアンプの電源をこう変えたら・・・」なんて思案に耽りながら帰途についたが、つい「好天の高速道」を飛ばしに飛ばして大宰府~別府間が何と1時間15分だった。