「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「ギャンブラー・モーツァルト」を読んで

2024年04月01日 | 読書コーナー

「人間の生涯は“真面目さ”と“遊び”から成る。この二つのバランスの取り方を知っている者こそが、最も賢明なる者、最も幸運な者と呼ばれるにふさわしい。」(ゲーテ)

いきなり、こういう文章で始まるのが、「ギャンブラー・モーツァルト」~遊びの世紀に生きた天才~(ギュンター・バウアー著)

                 

ちなみに、ブログ主の人生は心理的にみて「真面目が3割、遊びが7割」といったところかな・・(笑)。

さて、431頁にわたって細かい文字がビッシリ詰まった分厚い本で、よほどのモーツァルト・ファンじゃないととても読む気が起こらないに違いないが、ザットひと通り目を通したがこれはたいへんな労作だと思った。

本書のテーマは「ゲーテが語ったような意味でモーツァルトははたして幸運な人間であったのだろうか、生涯を賢く生きたのだろうか。別の言い方をすれば “音楽への真面目さ” と “遊び” の魔力との間でうまくバランスをとることが出来たのだろうか」に尽きる。

結論から言えば、モーツァルトは35年という短い生涯(1756~1791)において600以上にもわたる膨大な曲を作ったにもかかわらず、あらゆる遊びを楽しんでいたことが分かった。きっと人生を大いに楽しんだに違いない。

たとえば、遊びの種類を挙げるだけでも第一章「射的」、第二章「カードゲーム」、以下「ビリヤードと九柱戯」 「パーティゲーム」 「言葉遊び」 「お祭り、舞踏会、仮装パーティ」 「富くじ」と実に多種多様なものが(章ごとに)詳しく紹介されている。

「構想は奔流のように現れて、頭の中で一気に完成します。すべてのものが皆一緒になって聞えるのです。まるで一幅の美しい絵を見ているみたいです。後で作曲する段になると、脳髄という袋の中からこれらを取り出してくるだけです。」(要旨、小林秀雄著「モーツァルト」)

これは有名なモーツァルトの手紙の一節だが、こういう天性の才能に恵まれた音楽家だからこそ時間に余裕ができて沢山の遊びを楽しめたに違いない。そもそも“仕事”と“遊び”は時間的にみて表裏一体の関係にある。

つまり、“仕事”の処理能力が高い者ほど“遊び”も楽しめるというわけ(笑)。

モーツァルトは手紙魔だったらしく、(当時は唯一の通信手段だったので仕方がないが)、父や妻、姉、友人たちに宛てた膨大な手紙が「モーツァルト書簡集」として残されており、これからの引用が本書の全編にわたって多様に駆使されていて、読んでいくうちに自然にモーツァルトの人間像が浮かび上がってくるところが実に興味深い。

映画「アマデウス」にも描かれていたようにモーツァルトは普通の市井の人間と何ら変わりなかったが、あの神々しいほどの輝きを放つ作品との落差が印象的だった。

さて、本書の中で頻繁に登場するのは教育魔だった父親(レオポルド)だが、姉のナンネル(二人姉弟)も負けず劣らずの頻度で登場する。幼い頃に彼女と一緒に興じた“遊び”はモーツァルトの生涯に大きな影響を与えた。

最後に、最愛の姉ナンネルの結婚に当たり、彼女に宛てたモーツァルトの天真爛漫な手紙を同書の中から紹介しておこう。(298頁)

「それではウィーンからザルツブルグへ、1000回の祝福を送りましょう。お二人が私たちよりも幸せに暮らすことが出来ますように。お、お、おっと、詩でいっぱいの頭の中の引き出しから、ちょっとした文句が出てきましたよ。ではご静聴。

結婚したら沢山のことが分かります。これまで半分謎だったことも経験すればわかるのです。エヴァがその昔カインを産むためにしなければならなかったこと。しかし姉さん、この結婚のお務めをあなたは喜んで果たすでしょう。ぼくを信じて、少しも辛くはないのですから。

でも物事には表と裏が、結婚だって同じこと、楽しみもあれば苦労もある。彼が険しい顔をしていても、心当たりがないならば、勝手に不機嫌になっているだけ。男の気まぐれと思えば良し。そして彼に言いましょう。“旦那様、昼間はあなたのお好きなように。でも夜は私のものよ”」~

あなたの誠実な弟 W.A.モーツァルト~

いやはや・・・(笑)。


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