オーディオは個人ごとの感性や人生的な価値観(金銭的な意味も含めて)に大きく左右される世界なので、“ご本人さえ満足されていればそれで良し”といったところがある。
傍(はた)からあれこれ口をはさんでも仕方がないし、それに必ずしも正解があるわけでもないしで、日頃から差し出がましいアドバイスや断定的な物の言い方はなるべくしないように心がけている。これはお互いにそうだと思う。
ところが、それが一変するのがネット・オークションの世界。
こればかりは実際に自分の大切な“身銭”をきることになるのでそこには、建前論なんかはいっさい存在せず、マニアたちの掛け値なしの心情が如実に繰り広げられるように思う。
一つの例を挙げてみよう。
先日、丁度同じ落札日(5月29日)として中古専門店から同時出品されていた「PX25」真空管(イギリス)と「2A3」真空管だが、解説や写真で見る限りいずれも良品だった。
前者は周知のとおりヨーロッパ系の名三極管としてWE300B(アメリカ)と並び称される存在だが、後者は出力が高々3ワット程度だし、たしかにいい音はするもののPX25と比べるのはとても酷だというのが一般的な受け止め方だ。
ただし、今回出品されていたのは特別な「2A3」だった。「フィブレ」(FIVRE)というブランドのイタリア製の1枚プレートの逸品でおそらく1940年代前後のものだろう。それが中古専門店からの出品なのでいつものように1000円スタート!
真空管マニアのKさん(福岡)から、さっそく「イタリア製の一枚プレートで上質の2A3が出品されていますよ!ご存知ですか?」との報をうけて、さっそく「ウォッチリスト」に追加して注目した。
現在「2A3」については「刻印付き」(1940年代)を持っており、JBL375ドライバーに使用してすっかり満足しているので、どうしても手に入れたいという気はなく“安価で落札できそうなら入札に参加しよう”という心積もりだったが、落札日が近づくにつれ見事に(?)グングン値が上がっていく。
とうとう最終落札額は91100円!さすがのKさんも5万円まで追いかけたが、「途中であきらめました」。
ひとくちに「2A3」といっても製造年代によってまるっきり音が違うわけだが、「こんな地味な真空管によくもまあ」というのが正直な印象。自分の経験では真空管は1940年代前後のモノが一番いい音がすると思っているが、その真価を知っている方が自分ばかりではなく世の中に広範に存在しておられることを改めて認識した。
その一方、PX25の方はといえば最終の落札額は51000円とおよそ「2A3」の半額程度に留まった。真空管としては(「2A3」よりも)はるかに格上なのにこの有様。
この二つの明暗をいったいどう説明したらいいのだろう。
こればかりは需要と供給の面からしか説明できないが、比較的ポピュラーな球と稀少品の球との差が如実に出たのだろうが、用途として小出力に見合った能率の高いSPユニットを使用されている方も結構いるということだろう。
その点、たしかにPX25(出力6ワット)は我が家の高能率のJBLユニット(375ドライバー=108db、075ツィーター=110db)にも使えないことはないが、もっと小出力のアンプの方が試聴結果がずっと良かった。
真空管アンプの出力はけっして高ければいいわけではなく適材適所というわけだが、むしろ高出力だとどうしても回路から部品の選択も含めて「音が大味になる、しかも暴れやすい」印象を受けるというのが正直な実感。
したがって、今のところ高出力用のプッシュプル方式と聞いただけで拒絶反応が起きて「オー、ノー」(笑)。個人的には「高能率SPユニット+小出力アンプ」の選択がベストではないかと思っている。
さて、以上のような理由から現在、小出力アンプにすっかり嵌っている状態だが、JBL075用にKさんからお借りしている「ナス管」アンプ(出力0.5ワット)もいずれ返却しなければいけない。
そこで小出力アンプが1台どうしても欲しいということで、つい最近オークションで見つけたのが(出力が)1ワット前後の「刻印入りナス管アンプ」。
出力管、整流管ともに大好きな1940年代のナス管が使ってあるのが大きな魅力で、このほどオークションでようやく落札したが実に厳しい闘いだった。
結果的に200円の僅差で競り落としたが、お値段の方は娘がときどきこのブログを覗いているようで母親に告げ口されるとまずいので控えておくことにしよう(笑)。
以下、次回へと続く。