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「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

返却期限オーバー

2012年12月20日 | 独り言

「貸出した図書の返却期限が過ぎています。至急、返却を願います。それから予約された図書の準備が出来ています。」と、いつも利用している図書館から督促の電話。

「いやあ、どうもスミマセ~ン。大至急返却に行きます。ところで予約の準備ができたという図書は何ですかね?」

「”楽園のカンヴァス”と”深い疵(きず)”の2冊です。」「はい、分かりました。」

日頃、4つの図書館を利用していると、すぐに2週間の返却期限がオーバーする。「督促の電話代も手間賃も煎じ詰めれば税金の一部だ。返却期限がオーバーしたらペナルティとして利用者から何がしかの反則金を徴収してもいいのに。その代わり返却期限を3週間ほど延ばしてもらうといいのだが」なんて、虫のいいことを考えながらクルマを運転したことだった。

20分ほどで図書館に到着して、返却したついでに予約の図書を受け取り、ついでに興味のある本を物色。

結局、借りたのは予約を含めて次の本。

 「楽園のカンヴァス」(原田マハ著 2012・1・20 新潮社刊)

 「深い疵(きず)」(レネ・ノイハウス著 2012・6・22 創元推理文庫刊)

 「あんぽん」~孫 正義伝~(佐野 真一著 2012・1・15 小学館刊)

☆ 「完盗オンサイト」(玖村 まゆみ 2011・8・8 講談社刊)

            

まず「楽園のカンヴァス」は、新潮社の最近の宣伝誌(月刊)にこう書いてあった。

「本年度山本周五郎賞受賞!書評家、読者、書店員から早くも2012年ナンバーワンの声、続々」とあり、あらすじが書いてある。

「ニューヨーク近代美術館の学芸員ティムはスイスの大邸宅であり得ない絵を目にした。ルソーの名作”夢”とほとんど同じ構図、同じタッチ。持ち主の富豪は真贋を正しく特定した者に作品を譲ると告げる。ライバルは日本人研究者、早川織絵。リミットは7日間。カンヴァスに塗り込められた真実に迫る、絵画鑑定ミステリーの傑作。」

凄く評判がいいようだし、なかなか面白そうなのですぐにネットで予約したわけだが、読み始めてみると絵画鑑賞の薀蓄は別としてどうも、自分にとっては「?」だった。息もつかせぬ面白さにはほど遠く、頁をめくる手がどうしても鈍くなる。リアリティにも不満があってこの作家とはどうも相性が悪いようだ。


しかし、7頁に次のようなくだりがあった。「画家を知るにはその作品を見ること。何十時間も、何百時間もかけてその作品と向き合うこと」。

これは音楽も同様で「作曲家を知るにはその作品を聴くこと。何十時間も、何百時間もかけてその作品と向き合うこと。」ではなかろうかと思った。しかし、鑑賞時間からすると、モーツァルトにかけては人後に落ちない自信があるが、自分は彼のことをどれだけ知っているんだろうか、となると、とても自分は音楽を通じて作曲家と対話できるほどの鑑賞の
レベルに至っていないことを痛切に感じる。

次に、「深い疵」は8月の地元紙の「読書コーナー」で「ドイツ発、上質ミステリー」と見出しがあり、次のようなあらすじが書いてあった。

「ドイツで累計200万部を超えたベストセラーシリーズの初邦訳。ホロコーストを生き延びたユダヤ人として著名だった92歳の男性が殺害され、現場に「16145」と謎の数字が残された。司法解剖の結果、被害者は刺青がありナチスの武装親衛隊員だったという信じ難い事実が判明。第2、第3の殺人現場にも同じ数字が残され、被害者とナチスとの深い関係が浮かび上がる。ベストセラーになったのも深くうなづける上質のミステリーである。」

さて、ふれこみ通りならいいがと期待しながら読み進んだが、一気読みしたものの点数としては70点程度かな~。それよりもドイツではいまだに終戦時の影を引きずっていることが興味深かった。たとえば、逃げる避難民に追いついたソ連兵が男性はすべて銃殺し、女性はすべて暴行するというくだりには慄然とさせられた。

犯人像も動機もそのことと若干関係するのだが、殺害現場に残された「16145」の数字の意味はありふれていて肩すかしだった。それにしても登場人物の紹介が28人にも上っていて長ったらしいカタカナの名前を覚えるのにえらい苦労した。

次に「あんぽん」~孫 正義伝~

「孫 正義」(以下、敬称略)といえば、押しも押されもせぬ「IT」関連企業の盟主「ソフトバンク」の社長で、プロ野球「福岡ソフトバンクホークス」のオーナーである。いわば無一文からたたき上げた立志伝中の人物だが、その一代記みたいなもの。

著者はノンフィクション・ライターとして著名な「佐野 真一」氏。本書では徹底した取材のもとに個人の過去について「ここまで書くのか」という箇所が随所に散見される。

はじめに題名の「あんぽん」の由来だが、これは韓国人の「孫」の日本名が「安本」で幼少時代のあだ名だったからである。「孫」はJR鳥栖駅近くのバラック建ての「朝鮮」で豚の糞尿まみれの生活の中で育った。幼い頃から頭は良かった。小学校6年時の担任の先生が思い出として次のように語っている。

「なぜか彼のことはよく思い出すんですよ。思い出すのは、そう、彼の目です。授業中、目をかっと見開いて、正面を見据えているんです。微動だにせずに、子供離れしたすさまじい集中力でした。しかも、その目が澄み切っていた。邪心というものがないんです。何かを必死で学び取ろうと、熱い視線を教師に向けている。そんなことを感じることなど、長い教師生活でもめったにありません。彼は何を見ていたんでしょうかね。教師の私なのか、それとも黒板の文字なのか。あるいはもっと奥にある何か別のものなのか。あの澄み切った目の奥に、何が映っていたのか、いまでも知りたくなるときがあるんです」

「栴檀(せんだん)は双葉より芳し」ということわざがあるが、それを彷彿とさせるエピソードである。

それにしても、本書の内容は「孫」のあさましいともいえる親族の状況やみじめな貧困時代を赤裸々に綴ってあり、よくも孫はこういう本の発行を黙って許したもんだという気がする。

佐野氏はこれに味をしめたのか、大阪市長の橋下氏の出自に関わる記事を「週刊朝日」に連載しかかったところ、橋下氏の猛反撃にあい、周知のとおり、「週刊朝日」の社長の引責辞任にまで発展した大騒動となったことはまだ記憶に新しい。

人間には誰にでも人から触られたくない過去があるもので、そっとしておいてやるのが一番いい。まあ「俺にはそういう過去は無いぞ」という方があるかもしれないが(笑)。

最後の「完盗オンサイト」は昨年(平成23年)の「江戸川乱歩賞受賞作」。

天才的クライマーを雇い、皇居の貴重な盆栽を盗み出すという設定だがアイデアはいいとして人物の彫り込みがちょっと弱い。「ミステリーは犯罪がテーマなんだからそれを実行する人物像や動機がしっかり描けていないとダメ」というのが持論である。そういう意味でこの作品は軽すぎる。

本年度受賞作の「カラマーゾフの妹」といい、今回の作品にしろ、このところ乱歩賞受賞作には振られっぱなしである。

結局、今回借りた本のうちミステリーは総崩れで一番読み甲斐があったのは「あんぽん」だった。
 


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