17日(土)の午前中は朝から気温が高くてようやく春爛漫を思わせるムードが満開。身体も一段と軽くなったような気がしてことのほか動きやすい。
丁度いい機会だと冬支度から春支度へ衣替えをかねて懸案のオーディオ・ルームの整理整頓に取り掛かった。
どちらかと言えば、片付けが苦手で日頃からかなり散らかし放題。このところお客さんがご無沙汰なので一層、”磨き”がかかっている。
先ず部屋の隅の椅子に無造作にかけていた洋服類をクリーニングに出すものと、そのまま着る物とに選り分けた。何かの本に、洋服を脱いだときに、「その都度きちんと折りたたんで直す人はいい育ちが伺われる」という趣旨のことを書いてあったが、まったく自分は正反対。
分かっちゃいるけど、ちょっと面倒くさがり屋なんだよねえ~。言い換えると、結局「育ちの良くない人間」ということになるのだろう。
さて、部屋の後方の中心部、音楽試聴用の椅子の横にあるテーブルにも借りてきた本を乱雑に置いているので、読みかけの本を除いてすべて書棚に移動させたが、一番下に「クロスオーバーネットワーク早見表」があった。
おっと~、これは簡単に直し込むというわけにはいかない!
「座右の書」ならぬ「座右の表」である。しょっちゅう見るわけではないが、これが手元にないと毎日が安心できないという不思議な表である。
あまりにも数字が細かすぎて、判然としないのが残念。
市販のスピーカーをそのまま使っている人には、この表はまったく縁がないだろうが、自らスピーカー・ユニットを購入したり既成のシステムをいじって聴く人には絶対に欠かすわけにはいかない表である。自分もこれまでどんなにこの表にお世話になったことか、とても計り知れない。
この表の役割を一言でいうとネットワークを編成するときに該当周波数とその数値に見合ったコイルとコンデンサーの値が一目でわかるようになっている。
たとえばタンノイ・スピーカーの場合、1000ヘルツでクロスさせるときに6db/octでSPのインピーダンス8Ωの場合、コイルは1.3mh(ミリヘンリー)、コンデンサーは19.9μF(マイクロファラッド)という数値を使えばいいとなる。もちろん、これらは一つの目安になるだけで具体的には試聴しながらバランスが取れるようにコイルとコンデンサーの数値を探っていかねばならない。
こういう作業を何度も繰り返していると、オーディオとは煎じ詰めると「周波数特性」が友達みたいな存在にならないと”やってられない趣味”ではなかろうかと、いつも思う。
普通、人間の耳に聴こえる音は20ヘルツ~2万ヘルツとされており、音楽を再生するときにこの周波数特性に山とか谷がなくてすべてフラットに聴こえるのが理想なのだろうが、現実にはまずあり得ない話。
それぞれの部屋の音響特性も違うし駆動するアンプにもクセがあるし、SPボックスだってその容量はもちろんのこと、吸音材によっても特性が変わるし、SPユニットの背圧の逃がし方などにもこれといった理論は確立されていないしで、まったくの試行錯誤の世界。
したがってある程度、個々のおかれたケース・バイ・ケースで工夫しながら自分好みの周波数特性に仕立てあげていかざるを得ないが、そういうときに、強力な武器になるのがこの「クロスオーバーネットワーク早見表」によって、コイルとコンデンサーを駆使してネットワークを自由自在に設定すること。
とにかく効果的で即効的でその割に費用があまりかからない得難い手段の一つである。
何せ、コイルやコンデンサーの値をちょっと変えるだけでアンプを替える以上に音が変わる場合があるのだから、いったんツボにはまるともう病み付きになってしまうこと請け合い。また、数値は同じでもメーカー・ブランドによっても音が変わるし、なかなか奥が深い世界である。ちなみに自分が現在使っているのは、コイル、コンデンンサーともに「ウェスタン」製である。
さて、ひととおり整理整頓が終わってようやく部屋が見られる様(さま)になった頃に、実にタイミングよく湯布院のAさんが久しぶりに我が家に立ち寄られた。Aさんは、最近、古代史の研究に随分ご熱心の様子で興味深い学説を次々に打ち立てられている。この辺はオーディオに打ち込まれているのとよく似ていて、やはりつくづく凝り性の方だと思う。
まあ、普通のラジカセ程度でも音楽は十分鑑賞できるのだから、あえてオーディオまで欲を出す人間とは、自分を含めてすべて、凝り性なのは間違いないだろう。
古代史の定説に安住している学界が沸騰するような話を30分ほどお伺いしたのちに、度重なる「音の武者修行」で経験豊かなAさんに我が家の現システムの寸評をいただこうと試聴盤として選んだのがグリークの「ピアノ協奏曲イ短調第二楽章」。
ずっと目を閉じて聴かれていたAさん、やおら「これは誰の演奏ですか?思わずうっとりと聴き惚れてしまいました。」
「リパッティです。1947年の録音ですから何せ音が悪いのですが、演奏はえらく気に入ってます。往時は”ほかのどのレコードも及ばぬ美しさ”と評判になっていたようですよ。」
「リパッティですか~、道理で!この盤は持っていません・・・。」と、実に残念そうにおっしゃる。
ウ~ン、「That’s」の「CD-R for master」で何とかしてあげたいのはやまやまだが、リーガル・マインドが邪魔するしねえ、まあ、迷った挙句の結果については「推して知るべし」ということで。
音楽談義を早々に切り上げて、次にオーディオ談義へ。
同じ曲目を最初に「Axiom80」をメインとした第一システムで聴いてもらって、次にJBLの3ウェイシステムによる第二システムで試聴。その後に「どちらの音がお好きですか?」とストレートにお訊ねしてみた。
「Axiom80の方が好みです。それぞれに一長一短ありますが、音の”しなやかさ”という点で際立っています。ことクラシックを聴くときにこの音の佇まいと細かなニュアンスを金属のダイアフラムで再生するのは到底無理でしょう。」
「やっぱりそうですか」と、(そっと)うれしいため息。
どうやら、ここ当分、晩酌がことのほか美味しくなりそうで~。けっしてこういう”落ち”を誘導したわけではありませんが、毎度のことで、どうも相済みません。