「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

音楽談義~「フルトヴェングラーとカラヤン」~

2010年12月16日 | 音楽談義

20世紀の音楽界を代表する指揮者といえば、好き嫌いを越えて、まず「フルトヴェングラー」がきて、それからはちょっと難しいが「カラヤン」あたりではなかろうか。

もちろん「トスカニーニ」も外せないが指揮者だけではいい音楽は成り立たない。その点、前者たちは常任指揮者として世界最高峰のベルリン・フィルハーモニーを長期間率いていたことに意味がある。

この二人、親子ほど年が違っているのに彼らの間に飛び散った火花の激しさは有名だ。

フルトヴェングラーはカラヤンを生涯にわたって徹底的に嫌悪し決して認めることはなかったが、結局カラヤンはフルトヴェングラーの没後に後継者に納まった。

懐古趣味というわけでもないが、この二人が残した録音も膨大かつ多岐にわたり影響力も大きいので数々の伝説に包まれたこの二人の実像を知っておくのも悪くはあるまいと思う。

背景には時代の流れによって現代では指揮者とオーケストラの関係がすっかり様変わりしてしまい、今後こういったカリスマ的な指揮者の出現はもはや不可能に近いという事情もある。

幸いにもフルトヴェングラーとカラヤン、両方の指揮者のもとで演奏した全盛時代のベルリン・フィルの樂団員の何人かがまだ健在だという。彼らこそがこの両巨匠を一番身近に、そして一番自然に体験した人々であることは疑う余地がない。

こういう趣旨のもと彼ら団員たちに丹念に取材を重ねてまとめあげられた本格的なインタビュー集が次の本。

「証言・フルトヴェングラーかカラヤンか」(2008.10.新潮選書)

                                 


著者の「川口(かわぐち)マーン恵美(えみ)」さんはシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科卒業、シュトゥットガルト在住。

本書にはクラシックを愛好する人には興味津々の内容がオンパレードだった。

それも両者の優劣論よりもむしろオーケストラの楽団員たちが何のこだわりもなく率直に吐いた音楽やオーケストラ論の方が面白かった。

取材の対象者(元団員)は11名、うちカラヤンの思い出だけは5名。いずれも若いときから聴衆に音楽を聴かせて「幸せ」を与えてきたハイな職業の持ち主ばかりだけに生き方、境遇ともに最高にハッピーな老人たちである。

☆ フルトヴェングラーへの賛美

存命中の楽団員全員からフルトヴェングラーへの賛美は未だに尽きることがない。


☆ カラヤン容認論と否定論

樂団員たちの間でも帝王カラヤンとの当時の距離関係によって評価がまちまちで一概に決め付けるわけにはいかない。

しかし、カラヤンの晩年が彼自身、そしてベルリン・フィルにとっても大きな不幸だったのは全員そろっての証言で疑いない。カラヤンはあまりに独裁者すぎて
「引きどき」
を誤ってしまったようだ。

以下、自分にとって記憶に残った発言をごく一部に過ぎないが挙げてみた。

○ 
ティンパニーは出番は少ないがオーケストラの中で極めて重要な楽器。大きな音の一撃で音楽の流れを決定的に支配する力を持っている。指揮者、コンサートマスター、ティンパニー、この三者間に信頼関係がなければ指揮者は怖くて演奏できない。(ティンパニー奏者フォーグラー氏)

※ 
カラヤンは以前ティンパニー奏者だったのでこの楽器の演奏に異常なほどにこだわった。

 ベルリンフィルの常任指揮者は樂団員たちの投票によって決められるが、後継者選びにあたり常に違ったタイプの指揮者を選んできた。

厳格で正確な指揮をする
ビューローから、次のニキシュはまるで反対の緩いラフな指揮。

そのあとに
フルトヴェングラーという哲学者が登場すし、そして現実主義者のカラヤン

それに続くのが夢見る男
クラウディオ・アバド。彼の音楽は正確ではないかもしれないが本能やヒラメキがある。

そして現在のサイモン・ラトルの音楽にはおおらかで寛いだ人間的な温かさがある。(コントラバス奏者ヴァッツェル氏)

 フルトヴェングラーの後継者としてチェリビダッケが取り沙汰されたが、彼だけは楽団員の立場として「真っ平ごめん」だった。

それにベームもヨッフムも我々の目には二流としか映らなかった。後継者カラヤンは順当な選択だった。(コントラバス奏者ハルトマン氏)

○ カラヤンは素晴らしい業績を残したが亡くなってまだ20年も経たないのにもうすでに忘れられつつあるような気がする。

ところが、フルトヴェングラーは没後50年以上経つのに、未だに偉大で傑出している。

「フトヴェングラーかカラヤンか」という問いへの答えは何もアタマをひねらなくてもこれから自ずと決まっていくかもしれませんよ。
(コントラバス奏者ハルトマン氏)

 フルトヴェングラーはラヴェル(作曲家)を愛していた。大好きな「優雅で感傷的なワルツ」
を演奏会のプログラムでもないのにしょっちゅう自分のためだけに演奏させた。「スペイン狂詩曲」も好きだった。とにかくフルトヴェングラーのラヴェルは素晴らしかった。(チェロ奏者フィンケ氏)

以上のとおりだが、フルトヴェングラーとカラヤンの両方の指揮者のもとで演奏した団員たちはいずれも80代以上の高齢者ばかり。

「話を聞くなら、すぐに始めなければならない!」との著者の目論見はまったくの正解でカラヤン批判の急先鋒で本書の中でも最も精彩を放っていたテーリヒェン氏(ティンパニー奏者)が2回目のインタビュー後の2008年4月にあえなく他界。

2007年11月からほぼ10ヶ月をかけた取材のおかげで実に数々の貴重な証言が残されたことはほんとうに良かった。


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