「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

魔笛談義~オペラ魔笛の想い出~

2009年07月29日 | オーディオ談義

オーディオ専門誌「無線と実験」の読者交換欄を通じて「アキシオム80」を譲ってくれたT県のSさんとはその後もメールの交換を1日おきにやっている。

お互いに「音楽&オーディオ」好きなので話題は尽きず毎回、Sさんがどんな内容を送ってくるのかが愉しみ。

7月27日付けのメールは次のような内容だった。題して「魔笛の想い出」。

Sさんの友人のNさんは美大を卒業後ご夫婦でドイツに留学、画家として将来を嘱望されていたが精神を病んで極度のウツ症状となり帰国後病院通いをしながらとうとう自殺されてしまった。

当時の14年前のクリスマスの頃、丁度SさんがNさんご夫婦とお会いする機会があり、内田光子さんのモーツァルトのピアノソナタのLPを買ってプレゼントしたところ奥さんが「ありがとう、今は魔笛なの、魔笛ばっかり聴いてるの」と力説されていたのが最後の想い出となってしまった。

以上、要約だがこのメールを見て”大いに触発”されたので返信したのが次の内容。

モーツァルトの創作活動の集大成とも言える魔笛のあの「透明な世界」「人間が消えて失くなる=自殺」とが実に”しっくり”きていて胸にジンときました。たしかに魔笛の世界には人間の生命を超越したものがあってとても言葉なんかでは表現できない世界なんですよね。

自分にも是非、
「魔笛の想い出」を語らせてください。

あれは丁度働き盛りの37歳のときでした。それまで、まあ人並みに出世の階段を昇っていたと思っていたのですが、その年の4月の異動で辺鄙な田舎町の出先機関に飛ばされてしまいました。Sさんには「そんなアホな」と思われるでしょうが役人にとっては人事が全てなんですよね。

ガックリときて傷心のまま、片道1時間半の道のりをクルマで2年間通勤しましたが、1時間半もの退屈な時間をどうやって過ごすかというのも切実な問題です。

丁度その当時コリン・デービス指揮の「魔笛」が発売されクラシック好きの知人がカセットテープに録音してくれましたので「まあ、聴いてみるか」と軽い気持ちで通勤の行き帰りにカーオーディオで聴くことにしました。ご承知のようにこの2時間半もの長大なオペラは簡単に一度聴いて好きになれるような代物ではありません。

最初のうちは何も感銘を受けないままに、それこそ何回も何回も通勤の都度クセのようになって何気なく聴いているうち、あるメロディが頭の中にこびりついて離れないようになりました。

それは「第二幕」の終盤、
タミーノ(王子)とパミーナ(王女)との和解のシーンで言葉では表現できないほどのそれは、それは実に美しいメロディです。この部分を聴いていると頭の中の後頭部の一部がジーンと痺れるような感覚がしてくるのです。

そう、初めて音楽の麻薬に酔い痴れた瞬間でした。こういう感覚を覚えたのは魔笛が初めてです。ベートーヴェンの音楽もたしかにいいのですが、強い人間の意思の力といいますか、ちょっと作為的なものを感じるのですが、モーツァルトの音楽は天衣無縫で俗世間を超越したところがあって人間の痕跡が感じられないところがあります。

魔笛という作品はその中でも最たるものだという気がしますが、晩年のゲーテがモーツァルトの音楽を称して「人間どもをからかうために悪魔が発明した音楽だ」と語ったのは実に興味深いことです。

それからは「魔笛」の道をひた走り、病が嵩じて「指揮者と演奏」が違えばもっと感動できる「魔笛」に出会えるかもしれないと、とうとう44セットもの魔笛を収集してしまいました。これも一種の病気なんでしょうね~。

                
     CD(22セット)         DVD(13セット)      CDライブ(9セット)  

しかし、あれからおよそ30年近くになりますが、あの「ジーン」と頭が痺れるような感覚はもう二度と蘇ってきません。おそらく感性が瑞々しい時代特有の出来事だったのでしょう。

今振り返ってみると、37年間の役人生活で一番つらかった失意の時期が自分の精神史上最もユタカな豊饒の実りをもたらしてくれたなんて、まったく人生何が幸いするか分かりませんよね。

「人間万事塞翁が馬」「禍福はあざなえる縄のごとし」という”ことわざ”を自分は完全に信用しています。人生って結局これの繰り返しで終わっていくんでしょうね~。

これから、久しぶりに魔笛を聴いてみようと思います。トスカニーニ盤、ベーム盤(1955年)、デービス盤、クリスティ盤どれにしましょうか。

                            


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