「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

オーディオ談義~オ-ディオ訪問記~

2007年11月13日 | オーディオ談義

秋も深まる11月のある朝、湯布院のAさんからヴァイタボックスの”クリプッシュ・ホーン”(スピーカー=SP)の調整がやっと終わったので聴きに来ませんかというお誘いがあった。

日頃から快活なAさんだが、ひときわ弾んだ声に上首尾の気配が感じられたので「すぐ、お伺いします」と即答し、試聴用のCDを数枚カバンに入れてクルマを走らせた。

別府から湯布院まで一般道を利用して約30分。その間、クリプッシュ・ホーンの想い出にふけった。そう、自分が30代の頃、馴染みのオーディオ店にこのSPが鎮座していた!

イギリス製のヴィンテージSPで、その優雅な佇まいと音質にすっかり惚れ込んでしまい、どうしても手に入れたかったが目を見張るほど高価で当時、薄給のしがない身分のサラリーマンでは
”夢のまた夢”だった。

何よりも音質が素晴らしかった。今でも鮮明に記憶が残っている。当時、パイオニア社のA級アンプM5(モノ×2台)によって駆動されていたが、その音色の艶が何ともいえず、周波数がどうのこうのという音ではなくて、ただ音色だけで人を完璧に魅了する、そういうSPだった。

オーデイオ専門誌
「ステレオ・サウンドNo.16」1970年秋季号の表紙を飾るとともに316~317頁に詳しい解説が掲載されている。アメリカのクリプッシュ氏が発明し特許を持つ本格的な折り曲げホーンで、あの名声を馳せたJBLの「ハーツフィールド」、エレクトロボイスの「パトリシアン」などがこの方式を採用している。

20年以上前の記憶をたどりながら、ようやく対面できる嬉しさに心が弾みアクセルを踏み込む足にも思わず力が入る。

県外ナンバーがズラリと並んだ老舗「山のホテル夢想園」の駐車場にクルマを置いて、Aさん(総支配人)とコーヒーを飲みながらクリプッシュ・ホーンを手に入れられたいきさつを聞かせてもらった。

知り合って間もないM県のIさん(個人)のオーディオ相談相手になっているうちに、カンノの300Bアンプとともに、このSPの商談に発展したとの事で、トラックで3人がかりで取りに行ったとのこと。Aさんの交友の広さ、親切がこういう形になって実を結ぶので、まずもってうらやましい。

しかし、自宅に運び込んでからの調整が大変だったそうで、まず、ネット・ワークの全面的な入れ替え、JBL-075ツィーターの追加による3ウェイへの変更、そしてコーナーに設置するための壁の補強に多大の経費と時間を割かれたという。

夢想園からAさんのご自宅までクルマで約10分。お目当てのSPは2階の広いオーディオ・ルームの両方のコーナーに堂々と鎮座していた。高級家具と見間違えるほどの存在感で見ているだけでもそのデザインに飽きない。

早速持参のCDをかけてもらい音出しをしてもらった。こういうときには正直に言ってやや複雑な気持ちになってしまう。

あまりにいい音を聴かされると、なぜ我が家の装置ではこういう音が出ないのかとショックを受けてしまうし、それかといって、永年お互いに切磋琢磨してオーディオに励んできた盟友のAさんには是非いい音を出してもらいたいという気持ちが入り混じる。

試聴CD     オイストラフ「ブラームスのヴァイオリン協奏曲」
          グリミュオー「モーツァルトのヴァイオリン協奏曲」
          フラメンコ「タラント~ソン・ソン・セラ」
          ソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロサッス」
          マリア・ジョアオ・ピリス「モーツァルト~ピアノ・ソナタ」
          内田光子「  同 上   」
          マリア・カラス「オペラ~トスカ~」
          ちあき・なおみ「さだめ川」
          美空ひばり「新宿厚生年金会館大ホールでのライブ」
          オルティン・ドー「モンゴルの歌声」

実に
”音楽性に富んだ音”というのが第一印象だった。往年の名器はやはり色褪せていなかった。解像力というオーディオにつきものの決まり文句が虚しくなるという形容が正鵠を射ていると思う。Aさんによると低域の支えがしっかりしているため中域の音(S2ドライバー)がきれいな粒立ちになっているところが気に入っているという。

たしかにオーディオ的快感よりも音楽的快感を大切にされるAさんお好みの音で、特に、ピアノの音に気品と実在感があってピアノの先生である奥様も太鼓判を押され、ピリスと内田光子さんとの比較試聴ではピリスの技量とピアノの音に改めて刮目(かつもく)されたという。

自分も今更ながらクリプッシュ・ホーンの艶やかな音にすっかり魅せられ、現在の装置に加えてクリプッシュ・ホーンを全国くまなく探して購入しようかと、脳裡に一瞬よぎったが今の立場と財政状態では家庭内冷戦に持ちこたえられない(?)ので仕方なくブレーキをかけた。

もっとも現在のJBLの375ユニットを中心としたシステムには満足しているので、375ドライバーとS2ドライバー、それぞれの名器の差をいかに埋め合わせるかが宿題だろう。

Aさんご自身も長年のJBLファンで自ら所有のJBL375の能力には高い評価をされているが、375の高域部分と075ツィーターのつながりにやや不満とのことでこの間にLE85ドライバーを入れて4ウェイにしていずれ試聴してみたいという意向をお持ちのようだ。

なお、このクリプッシュ・ホーンについては、低域用のアンプにヤマハのCA-2000、中・高域用に300Bアンプを使用されているが、いずれ発展的に低域用にELー156のプッシュプル真空管アンプに替えてみたいとのことだった。

とにかくAさんの熱心さには頭が下がるし、以前のオーディオ訪問記でも紹介したがオーディオへのこれまでの投資額にも驚いてしまう。しかも高級ヴィンテージものに惜しげもなく投入される。

余談だが、Aさんがある有名オーディオ店から仕入れた情報によると、中国の成金達が今、お金に糸目をつけずに往年の高級オーディオ機器に目がない状況という。

音楽を聴く道具としてのステータス、それに加えて高級家具としての側面から需要が高く、ウェスタンの製品、タンノイのオートグラフ、JBLのパラゴン、このクリプッシュ・ホーンなどをバイヤーが買いあさっており、価格上昇は必至の情勢で、オーディオの世界にもあの中国パワーが押し寄せてきている。

購入するのは結構だけれども、ヴィンテージものはネットワークの交換などいろいろとノウハウがあり手を加えねばよく鳴らないので宝の持ち腐れにならなければいいのだが、その辺が問題だろう。

とにかく、久しぶりにいい音を聴かせてもらってあっという間に3時間ほど長居をしてしまった。最後には夢想園に戻って厚かましく食事をご馳走になり帰路についた。

道中、我が家に着いたら早速同じ曲を聴いて、どこがどう違うのか確認しなければと思いつつ、余韻が冷めないうちにと思いっ切り飛ばして帰った。

                           
              クリプッシュ・ホーン           カンノ300Bアンプ
                         
             テレオ・サウンド誌表紙のクリプッシュ・ホーン


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