CD番号 BMW 1000/2(3枚組)
収録年 1974年
評 価(A+、A-、B、C、Dの5段階評価)
総合 B
指揮者 B ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908~1989)
管弦楽団 A- ウィーン・フィルハーモニー
合唱団 A- ウィーン国立歌劇場合唱団
ザラストロ B ピーター・メヴン
夜の女王 A- エディタ・グルベローヴァ
タミーノ B リーン・コロー
パミーナ A+ エディット・マチス
パパゲーノ A+ ヘルマン・プライ
音質 B
私 見
1974年ザルツブルク音楽祭でのライブである。まず、視聴後すぐに浮かんだ印象は、上品さを優先させた上流階級向けの魔笛だということだった。1980年盤(スタジオ録音)と実によく似ている。これは明らかに指揮者の意図なのだろうが制作者の意図とは距離があるようだ。
「モーツァルト最後の年」(H.C.ロビンズ.ランドン:中央公論新社)によると、台本作者シカネーダーは魔笛の作曲にあたってモーツァルトにこう頼んだ。
「あらゆる階層に共通する最低限の平均的な好みを満たすように心がけて欲しい、全ては大衆が求めている今様なものを・・・」
モーツァルト「よろしい・・・。引き受けた」
こうしてオペラ魔笛は大衆を念頭に置いた最初のオペラとしてモーツァルト最大のヒット作となったが、こうした経緯からも上品さだけの魔笛は、台本作者、作曲家いずれにとってもその本意ではない。
聖なるものと俗なるもの、上品なものと下品なもの、これらの相反する要素が織り交じって崇高な調べになるのが魔笛の最大の魅力だと思う。
カラヤンの上品さは何といってもタミーノ役の配役に象徴されるのだが、総じて上記のような相反する概念の対立による相克感が聴き取れず上滑りしている印象がつきまとう。これではドラマにならない。
彼の出自は典型的な貴族階級なのでその辺が強く影響しているのだろうか。とにかく、指揮の良し悪しは別にして体質的にどうも魔笛に合った指揮者ではないように思う。
※1950年のカラヤン盤(スタジオ録音)はやや事情が違っており、タミーノ役があのデルモータで野性味溢れる配役で緊張感が漲っているが、この盤の指揮はピンチヒッターに近かったというのが真相のようだ。皮肉にもカラヤンが録音した中でこの盤の出来が一番良い。
さて、歌手陣だがザラストロ役はやや音程が不安定だった。
グルベローヴァはおそらくこの盤が夜の女王のデヴュー盤ではなかろうか。彼女の場合、若いときの声質が後年になってもあまり変わらない印象を受ける。
タミーノ役は上述したように上品過ぎて押しの強さが足りない。
パパゲーノ役のプライはさすがに貫禄十分でハマリ役というところ。
特筆すべきはパミーナ役のエディット・マチスだ。さすがに容姿とともに一世を風靡したソプラノ歌手だけのことはある。柔らかくて、叙情味があって理想的なソプラノでアリアも重唱もいうことなし。マティスだけがお目当てでこの盤を購入してもいいくらい。
カラヤンはオペラでは歌手の選定にあたって声の質は当然として容姿も随分重視したようで 彼女は1980年のカラヤン盤(スタジオ録音)にも再登場している。