「風間陽水の依頼簿（カルテ）・271」

カルテ番号　と・8（12）

遠山史郎は今日幾度のショックを覚えただろう。
本当は知っていた事実だ。
多くの人達が知っているはずだ。
だが、その事は暗黙にして触れないのが普通だ。
そうでないと、常に罪の意識の中で暮らすことになる。
自分の事は棚に上げて・・・・
そうでないと、不正を指摘することはできない。
だが・・・恥ずかしいことでもある。

院長は穏やかに言った。
「私は立派になろうとは思っていません。
というか立派というのが良くわからないのです。
また、人の評価を気にして生きていくのは性にあわないのです。
それでも社会が平和で人々がのびのびと穏やかに平和になる事を望んでいます。
自分の性格や生き方にかなり欠陥があり、恥ずかしい部分が山ほどあるのは自覚しています。
そして立派にならなくても大丈夫。
不正を正すよりも自分の至らない部分を自覚する方が平和になれると思っています」

遠山史郎は道が見えた気がした。
これで、この先は大丈夫だろう。
今まで無理をしてきたのだ。
不正を許せないのは、自分を隠していたからだろう。
もっと自然に優しく解決する方法があるはずだ。
誰もが立派ではないが、不正に対する後ろめたさもある。
指摘するか、黙るかの二択以外に方法は幾つもありそうだ。
「ありがとうございました」
それだけ言って、遠山史郎は帰宅した。

（登場する人物・組織・その他はフィックションです）


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